狼を甘くするためのレシピ〜*
 この男は、彼女たちの辛さをわかっていないのだ。

 仕事相手ならいざしらず、恋人が自分以外の女性とプライベートでふたりきりで会うとなれば、心穏やかではいられないのが普通だろう。
 フェミニンな見た目と違って、竹を割ったような男らしい性格だと言われる蘭々だが、同じ女性として彼女たちの心は、痛いほどわかる。

 なのに仁はいくら言っても、『相手は蘭々だって言ってあるし、お前が昔からの親友って知ってるんだから大丈夫さ』と呑気なことを言う。

 彼にそう言われた彼女たちは、おそらく辛さや怒りを隠し、物わかりのいい笑顔を彼に向けたのだろう。

 そして、仁はそれを見た目のまま受け取る。

 ――本当に、女心というものがわかってない。

 なんて罪な男だろう。

 余すところなくその魅力を使い、恐ろしいほど簡単に女性の心を掴み取るくせに、彼は自分の心の一部しか与えない。
 もしかすると、一部与えるどころか、奪うのみかもしれないとすら思う。

 彼とは長い友人ではあるが、こんな男を好きになったら世界の終わりだと、蘭々は常々思っている。
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