狼を甘くするためのレシピ〜*
とにかくそんなわけで、
『仁はそれで良くても私が嫌なのよ。彼女たちに心配をかけたくないから、恋人がいる時は、絶対に!ふたりきりで会わないようにしましょう』と、
口を酸っぱくして念を押しているが、どうやら本当に恋人はいないようだった。

「大丈夫だよ、本当にいないから。なんだったら写真をSNSにアップしてもいいぞ」

 そんなことを言いながら、蘭々のスマートホンを手から奪い取った仁は、また体を寄せながらふざける。

 蘭々は今度こそ安心したように頬を寄せた。
「はい。チーズ」

 ふたりは高校生の頃からの親友だ。
 そこに恋愛感情はない。

 恋人を不安に陥れる彼でも、親友としては最高の男だった。
 いままでどれほど彼に助けられたかわからないし、どれだけ励まされてきたか感謝してもしきれない。

 かけがえのない、とても大切な存在である。

「で、お袋さんと海外旅行に行ったあと、叔母さんのところにいくのか?」

「うん。一週間か十日くらいね。思い切り気分転換してくるわ」

「帰ってきたら、店のほう、頼むぞ」

「はい。わかりましたオーナー」

 店とは青山にあるジュエリーショップで、氷室仁が最近手に入れた店である。

 蘭々はそのショップで店員として店に出ることになっている。でも蘭々の希望でそれはあくまで一時的という約束になっていた。
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