恋は小説よりも奇なり

顔を出したのは部屋の主ではなかった。

竹井 絢子(たけい あやこ)。

亡くなった雪乃の従妹(いとこ)だった。

戸惑いで言葉が出ない満の代わりに、絢子は「編集者の方ですか?」と声をかける。

絢子の問いかけに満は大きく首を振って否定する。


“武長先生いますか?”


その一言が喉にひどく絡まって言うことができない。

「……絢ちゃん、新聞なら他をとってるから断ってくれ」

部屋の奥から奏の気だるそうな声が聞こえる。

「新聞屋じゃないわよ。大丈夫だから私に任せて」

心を許したような二人の会話。

「ごめんなさい。彼……病み上がりで今は出てこられなくて。何かあれば私が代わりに――…」

絢子は満からみれば目を見張るような美人で、落ち着きのある大人の女性そのものだ。
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