恋は小説よりも奇なり
Episode.5 ヤキモチと女泣かせ

遊園地へ出掛けた休日から満の心は少し気を抜けばザワついていた。

理由はただ一つ。


『俺が風邪をひけば責任を感じてお前は泣くだろう。それは……困る』


奏の声が……体温が……一瞬前の出来事のように鮮明に満の身体に残っていた。

どんな顔をして借りた上着を返しに行ったらいいのだろう。

彼の担当編集者や親友に厚かましいお願いはできない。

ポストにねじ込む。

ドアノブにかけておく。

近所なのに宅配で送る。

非常識極まりない返し方を色々考えてみるもそれは思うだけ。

結局きちんと“ありがとう”が伝えたくて普通にお宅訪問をしてしまう。

満は奏の部屋のインターホンを押し、緊張した面持ちで彼が出てくるのを待った。

「はい、どちら様ですか――…」

鶯(うぐいす)のような綺麗な声と共にドアが開かれる。
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