恋は小説よりも奇なり

慌てて戻そうと手を伸ばす満に、梓は「ちょっと待って」と制止した。

「ここは私がやっておくからいいわ。それより、中島教授があなたに用があると訪ねてらしたわよ。研究室にいらっしゃると思うから行ってらっしゃい」

「でも……私の責任なので」

ひどく恐縮した面持ちの満。

梓は彼女が抱える本をサッと取り上げて入口の方へ目を向ける。

「ほら、教授をお待たせしてはいけないわ。この埋め合わせは後日の仕事でキッチリ挽回してもらうから安心して」

「では、お言葉に甘えて今日はこれで……」

満は丁寧にお辞儀をして図書室を出ていった。

中島教授の研究室の扉をコンコンとノックすると、しばらくして室内から「はーい、どうぞ」というのんびりした声が聞こえてくる。
< 191 / 250 >

この作品をシェア

pagetop