大嫌いの裏側で恋をする


***


って、とこだったわけだけど。
たった半年をこんなにも色濃く思い返すなんて、お前ナシじゃ有り得ねぇよ。

隣の散らかったデスクを眺め続けたまま、また、思い返す。

〝男と別れた〟と。あいつの涙を初めて見て、息を呑んだ夜。
男がいる相手に、何をどうしろっていうんだと。 見ないフリする口実を失った、その気持ちが加速していくのを。

俺は、嫌という程実感してた。

仕事のミスで悔しいと泣く姿を、真横で見せられた夜も。
吉川と自分を比べて嘆いてる姿、そんな自分を嫌だと俯く姿。
可愛くて、抱きしめたくて、仕方なかった。

(我ながら車に乗せといて、手出さなかったのはよく頑張ったと思うな)

助手席に座るあいつの、なんか無駄にいい香りだとか、嫌でも見てしまう身体のラインだとか。
頭を撫でながら、胸にきた、その衝動は経験のない強さで。

(女は好きだけどなぁ)

けどそれは、身勝手な息抜きと暇つぶし、そして男の性だったとして。
あいつを思う時の、それは、また、違う。

(ったく、惚れると面倒なもんだな)

週末、何してるんだ、と。
そんな簡単な誘い文句を声にするのに、こんなにも気力と体力を要するとは思ってもなかったし。
これまで自分はそれなりに恋愛をしてきたつもりでいたわけだけど、実際誘われりゃ乗る程度の軽さだったから今更苦労してる。

嫉妬だって、焦りだって。
ふくらむ感情との、折り合いのつけ方がわからないときたもんだ。
これまで何を余裕ぶって女相手に遊び呆けてたんだと嘆きたくもなった。

女が……、いや、あいつが。
何に対して喜んで、どんなことに対して怒るのかも。
仕事が絡んでねぇなら、さっぱりわからん。

でと、それでも。
ほんの少しの心の動きまでもを知りたいと思う。

「んだよ、今更クソだせぇわ」

……そんな突き放してしまいたくなる程の、甘さを持ったこの感情。
抱えて1人盛大な溜め息を吐き出した。

けれど、言葉とは裏腹に隣のデスクをせっせと整頓してやる。
意外と惚れた女相手には世話焼きになってしまう一面があったりするんだろうか。

俺さえも知らない俺は、どんな未来を掴むだろう。
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