大嫌いの裏側で恋をする

「…………え」

ポカン、と間抜けな石川の顔に手を添える。
切り出しちまえば、こっちのもんかよって勢いで言葉になっていく、想い。

「お前は、俺や吉川に追いつきたいだとか言ってるけど」
「た、高瀬さ……」

頰を撫でるようにして、柔らかな肌に触れ続ける。

「俺はお前が考えてる程出来た人間じゃねーし、逆にお前のイノシシみたいな猪突猛進さを凄いと思ってるし」
「え、い、イノシシ???」
「仕事ばっかで。 疲れたらお前の生意気な声思い出したりさ」
「な、生意気ときた」

不服そうにくるくる動く表情が。

「可愛くて仕方ない」
「……っ!」

息を飲んだお前の、手首をきつく、掴んだ。
こんなにも、誰かの声を望み。
それでいながら、

「お前が好きだ」

怖かったことなんてなかった。

「……なあ、お前は?」

揺れ動く誰かの瞳を、こんなにも見つめたことなんてなかったんだ。

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