大嫌いの裏側で恋をする
一緒にその先を描こう②



***

風が、肌に刺さる。
そんな、よく聞く言葉を初めて体感しているような気がした。
街中を、こんな風に走ったことなんてあったのかな。
すれ違う、こいつ何こんな人混み走ってんの?って、たくさんの人達の視線。
それに躊躇せず、脇目も振らず、目指せることを今は勇気に変えたい。

(なんでいつも迷うんだろ)

こんな変な視線浴びてる私を見たって、高瀬さんは聞いてくれる人だ。
『どうした?』って、優しくない顔して、でも優しい声で、心の中を見てくれる人だったじゃんか。

恋を、する前。
いや、多分今も。
口が悪くて散々イライラしてきたけど、でも決して否定はしない人だった。

それなのに。
そんな高瀬さんをすぐに忘れてしまう私だけど。
その度に思い出すから。

今の前を向いて走る私も。
自分への劣等感でいっぱいの私も。
どんな顔した私でも、高瀬さんは見てくれる人だって、思い出すから。

だからどうか呆れないで。

「あーー、もう、急いでる時に限って」

焦ったさを勝手に感じて、私は肩で息をして赤信号を眺める。
駅からまっすぐ、何個も短い歩行者用の信号に止められて、最後。
この信号が青になったら。

その時、信号の先に見えるビルの入り口に影。

(いた!高瀬さん!)

大通りから右折してくる車のせいで、途切れ途切れに。でも肩から大きなカバンを下げて。
会社に戻ってきたばかりっぽい、そんな高瀬さんの姿が確かに目に映ってる。

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