大嫌いの裏側で恋をする
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「なるほどねぇ、先月分に入れてくれって連絡貰ってて、こっちは了承してたけど調整するのを忘れてた……と」
「……はい」
18時を少し過ぎた今、17時の定時でほぼ毎日帰って行く吉川さんが今日は残業をしている。
……私のせいで。
「こんな時はどうしてんだ?」
私と吉川さんを交互に見た高瀬さんが、溜息混じりに吉川さんに聞いた。
戻ってまだ間もなかった為、ネクタイを緩めながら視線を吉川さんに固定させて。
その、視線に心が痛むなんてバカみたいだ。
この2人の間に流れる入っていけない空気。
それに心が痛むなんて身の程知らずもいいところだ。
「んー、金額が小さかったら値引きだとかで消し込むんだけど大きいからなぁ」
「ま、そうだな。先方は大手だしそこまで揉めないとは思うけど」
「使ったことは確かなんだからね。作業終了書も納品書も間違いなくある」
課長連れてくかなぁ、と呟いた高瀬さん。
うんうん、とそれに頷いている吉川さん。
徐々に人が減っていく中、出入り口に近い私のデスク周りで社内でも目立つ。
……特に今は殊更目立ってる2人が話してるもんだから注目の的なんだけど。
そんな視線もヒソヒソした声も気にしない2人が、もうなんだか別世界の人に見えてくる。
「ご、ごめんなさい……私聞いて、たのに。 すみません」
いつも通りに声を出したつもりだった。
なのに響いた声は小さくて、震えてるみたいで。
情けなくって仕方ない。
「いや、最終俺にチェック持ってきてんだから、見落としてたのは俺も同じだろ」
デスクの前で向かい合って話す2人の間で小さくなっていた私を、庇うような発言をした高瀬さん。
それに小さく頷き、そして私を見た吉川さんが優しい声で、でも迷いのない瞳で言った。
「うん、ただこの会社では営業の仕事ではないんだよね。だから最終的にはあんたが確認できてなきゃダメだったよ。責任は高瀬くんや課長が取らなきゃいけなくなるんだけどね」
「……はい、ほんとに、すみません」
吉川さんの、こういうところが好き。
ほかの先輩は、こんな場面で
『仕方ないよ』
って笑いながら、
『あの子ほんといつまでたっても使えないよね』
と。影で叩くのが当たり前で。
そんなことしない吉川さんが大好きだし、尊敬もしてる。