大嫌いの裏側で恋をする


今の俺の頭の中を占めてるもの。

“前の男からの連絡“と“いつもと何かが違う彼女の態度“

(ヤベェな、頭おかしくなってんのか)

いつからこんなに女々しい男になったんだ。
やってられるかよ。

タバコを吸わないならキッチンに用などない。ベッドに戻って、とりあえず寝る。



***


『今、終わりました!』

しばらくして。スマホに入ったメッセージ。その特に何も考えてなさそうな文面に、何となくホッとした。そしてすぐにキーケースと財布を手に立ち上がる。

――俺は、目に見えないものに怯えて立ち止まるなんてざまが死ぬほど嫌いだ。その先にあるものが欠かせないものであればあるほど。
仕事だって、今で言うなら女だって。

悩む暇があるなら、ぶつけろ。疑うなんて底なしだ、くだらない。そんなことをしているうちに人間なんて相手のことも、自分自身のことさえも疑うことしかできなくなるだろ。

いつだって、見えないものに向かう時には前だけを見る。振り返るのは、全てを見通せた時だけだ。
それをモットーに生きてきたわけだが……。

(あ、つーか、いくらなんでも寒いわ)

玄関を開けて、吹く風がビビるくらい冷たく、寒いことに気がついた。

ざっくりとしたニットは着心地楽だが真面目に寒い。めんどくせぇなと一度部屋に戻り、ダウンを着込んで再び家を出る。

真冬に、暖をとるって、まあ常識的なことを忘れそうになるくらいには。
俺は、テンパってるみたいだ。

先行き不安とは、まさに。
< 309 / 332 >

この作品をシェア

pagetop