大嫌いの裏側で恋をする


降りようとする石川の二の腕を掴み引き寄せて、肩を抱いた。
そうして何とか、動きを止める。

「だったらお前の家に行く」
「なんでそうなるんですか」
「どうしても嫌だったら、俺が帰れば済む話だろ。とりあえずこの状態で帰す気ないから、さすがに」

強く言い切られた為か、石川は無言のままだが、車から降りようとする動きは止めてくれた。

ひとまず、セーフだ。

――が。

そのまま会話もなく石川のマンションに向かう、道中の気まずさときたら。

(納期ミスりまくった客んとこに頭下げに行く時より……数万倍は怖ぇって)

俺は少し前の自分の発言を大いに呪いながら車を走らせることになった。



――20分程度か、無言を貫く石川の隣で耐えに耐え抜きマンション近くに到着した。

単身用のアパートやらマンションが立ち並ぶ通り。数十メートル先にパーキングがあるのが地味に便利だ。何度も世話になってる停め慣れたパーキングに車を停車させると。

「乗せてもらってありがとうございます」

と、ちっとも有り難がってなさそうな声で礼を言われる。

ついでに俺が返事をするよりも前にドアが開けられ。
怒ってるからか先にスタスタと歩き出してしまった。

エンジンを切って鍵を乱暴に引き抜き、後ろを追いかけると。

少し前を歩く石川が立ち止まり、固まる。

「何見てんだよ」と、少し離れた位置から声をかけると。

「美波!」と石川の声が返ってくるかわりに、男の声がした。
俺は嫌な予感ばかりが募っていくのを感じながら声の方に、しっかりと焦点を合わせる。
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