大嫌いの裏側で恋をする


石川が妙に真面目な顔して俺を見るから、ぎくりと身構えた。

「なんだよ」

バツが悪そうな顔で、目を伏せながら。石川の口から小さな声が響く。

「高瀬さんがいるから辞めてもいいんじゃない? とか……思ったんですよ」
「俺?」

自分を指して、眉を寄せた。睨んでるわけじゃない。意味がわからないからだ。

「そ、そのうち結婚できるなら辞めたってなんとかなるんじゃん?って、思っちゃいました」
「ああ、そーゆうな」
「呆れましたか?」

居心地悪そうにチラチラとこちらを見て、目が合ったなら、勢いよく逸らす。

「別に呆れるもんでもないだろ、事実なんだから」
「でも、なんか狡いってゆうか、高瀬さんを逃げ場にしてるっていうか」
「間違ってないだろ」

俺が言うと、石川はグッと何かを堪えるようにして下を向いた。
多分これは言葉が足りなかったやつだ。

「おい、違うぞ。別に責めてるわけじゃない。本当にお前がきついって思うんなら逃げればいいし、俺がそうさせてやれるんならそれでいいじゃねぇか」
「え?」
「まぁ、でもそれじゃ気に食わないって言うんなら、付け加えとく。もしいつか俺がそう言い出したらお前が俺を助けてくれればいい、逃げ場になってくれれば」

ボケッとしてる頭をわしゃわしゃと撫でる。
大概『ボサボサになるからやめてくださいよ』と怒ってくるはずなんだけど、返ってこない。
かわりに石川の細い指が俺の手に触れて、引き寄せられた。
バランスを崩した俺は、よろけてテーブルに手をつく。
絵的にはそのテーブルに、もたれ掛かって立っていた石川追い込んで囲ってるような。
なんとも言えない……他の社員に見られたら騒がれかねない体勢なんだけど。

「そっか! そうだ、そうですね高瀬さん!」

本人全く気にしていないらしく、こいつの判断基準がさっぱりわからない。

「次は何だよ」
「そうですよ、高瀬さんもほら、私に頼ってくださいよ! なんでもどうぞ、ほら」
「……いきなりだな、お前は」

ネクタイを楽しそうに引っ張る姿も、可愛いから勘弁してくれ。
 
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