大嫌いの裏側で恋をする

傲慢とは、あれか。

見下す、侮るなど、そんな意味合いを持つ、あれか?

高瀬さんの言葉の意図がわからない。

私は、吉川さんを羨んでこそいても、見下すだなんて、有り得ない。

悩んでいると、視線を感じる。

「……そ。 傲慢」

前を見ていた高瀬さんが、いつのまにか、じっと私を見てる。

「吉川の数年をすっ飛ばして見てんなら、おかしいだろ? あいつが、例えばお前と同じ26の頃から何もせずに、今ってか? そりゃ見下してんのと変わらん」

「…………あ」

情けなく漏れ出た声を抑えるように口元に手をやる。

高瀬さんの言葉は私を窘めながら、けれど、前を向かせようとしてる。

私が羨む吉川さんが、ずっと昔から今の吉川さんだった訳ではないのだ。

きっと高瀬さんはこう言いたいのだろう。

彼女も、こんな風に悩み立ち止まり、私に羨まれ、妬まれるほどの彼女になったのだと。

その道のりから目を逸らし嘆くこと、それは歩き続けてきた彼女への冒涜。

「わ、私……すみません……!」

高瀬さんと吉川さんの関係や、仕事のミスが重なっていたにしても。

そんなことも考えられないほどに人を羨み妬んでた自分が情けなくて仕方ない。

頬や頭が一気に熱を持つ。

「別に、俺は何とも。 ただ、焦んなよって言いたかった」

伸ばされた手が、前髪をかき分け額に触れた。

どくん、と心臓が大きく跳ね緊張と焦りを伝える。
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