大嫌いの裏側で恋をする
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「よし、揃ったな、お前ら」

月曜日の朝。
課長が珍しく課のメンバーを全員集め、見渡しながら言った。

全員とは言っても、そもそも私の他に事務は1人。
営業は高瀬さんの他に3人だけなんだけど。

だから、声も行き届くし。
私たちは自分のデスクにて、前にいる課長に注目する。

「10月からうちの課に増員が決まった!」

何故かドヤ顔でイスに踏ん反り返る課長に対し、背後から小さくため息が聞こえた。
……高瀬さんだ。

「増員て、聞いてないっすよ、なんでまた急に」
「お前も聞いとるだろ、社内のシステムが大幅に変更されることになった。その準備に各々事務員も応援対応が必要になるそうだ」
「え!? 私は初耳!」

思わず声を挟む。
今の業務にプラスしてシステム変更の業務だなんて。
本気で終電間に合わないから。

「まあ、落ち着かんか石川!」

お前は、せっかちだな! って、相変わらず大きな声で豪快に笑いながら課長が言う。

「あー、そっか。 その人員か。 だったらこいつも、まともな時間に帰してやれるんですね?」
「そうだ、派遣社員が1人うちの事務2人のサポートとして1ヶ月だ」
「ふーん、1ヶ月でどうにかなるもんか? 営業での入力作業も多いって言ってましたよね」
「無理なら更新して継続してもらうことも可能らしいからな、状況次第だ」

ふーん、と。
小さく呟いた高瀬さんの声が、聞こえるんだけど。

何げに、私の帰る時間なんかを気にしてくれてる感じの言葉。

(あんなに、怒らせちゃったのに優しいんだもんなぁ……)

嬉しくて仕方ないのに、私は振り返ることもできないで。
課長の声に集中してるフリをする。

どうでもいい時だけ威勢のいい自分、ほんと、どうなんだって思う。

「増員許可おりただけでもよしとしろ! 石川、これから手書きでの品番変更は全部工場で弾かれるからな」
「は!?」
「これまで発生した特殊注文と、その単価を本社の営業本部で管理する」
「……えーっと、そうなると、どうなるんです?」

課長の表情が、段々とめんどくせぇな。 って顔に変わってくもんだから内心ヒヤヒヤしながら聞いてみる。

「支店レベルで単価を変更できなくなる。 都度稟議通せって話になるんだろうから、今までのペースで請求関連は間に合わなくなるって話」

答えてくれたのは、私の隣の席にいる……今は課長の方を向いているから背後にいる、高瀬さんで。

そういうことだ! と課長が続く。

「ええ……そんな」

情けなくも弱々しい声が出てしまう。
注文書関連もまだまだ慣れないけど、請求関連は、もっと慣れない。

ここに異動になるまでは総務課にいた私だけど。 こなした仕事といえば備品補充に発注に、たまに来客対応に。
営業課が外へと向かう仕事ならば、うちの会社での総務は中へ向かう仕事。
そう、社内相手に働いていたわけだから。

慣れるまでは、胃が痛かったものだ。
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