mimic
「こないだは小夏ちゃんの上司だから加減しましたけど、今回はそうはいきませんよ。はは」


そして目に入った光景に、言葉を失くした。


「い、痛い……! 離せよ!」
「だったらもう、金輪際、ちょっかいかけないでもらえます? うちのに」


強い力で肩を鷲掴みにされ顔を歪ませる阿部店長に、見たものを凍てつかせるような鋭い目の海月は、平然とした調子で言った。

その握力はどれほどのものなのかは計り知れないけれど、阿部店長は苦しそうに歯を食いしばっている。


「ちょ、ちょっと止めてよ!」


わたしが止めると、海月はぱっと未練なく手を離した。
そして。


「あーあ。悪い虫、一匹排除したのにまたついちゃったよ」
「、は?」
「小夏ちゃんには、俺を焦らす才能があるのかな?」


一連の騒動に、周りの社員たちがみな注目してるにも関わらず、臆面なく海月は言った。
限りなく両目を細めて笑いながら、額の汗を拭って。


「さ、帰ろ。騒がせちゃったし」


唖然とする同僚たちに、「すみません、では」などと勝手に挨拶しながら、海月はわたしのコートとバッグを腕にかけると、空いた手でわたしの腕を掴んで立ち上がらせた。


「ちょ……! か、勝手にっ、困る!」
「言っただろ? これからはもう俺の好きにする、って」
「へ⁉︎」
「なので、小夏ちゃんをさらう」
「な、なに言って……⁉︎ っていうか海月、どうしてここに……?」


すごく居心地が悪くて、わたしはせめて体が小さくならないかと願うばかり、首をすくめて小声で聞いた。
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