mimic
× − × − ×


葡萄の木に実がならないのは、つるの仕立てが悪いからじゃないか、と海月が言った。

わたしは正直葡萄なんて、なってもならなくてもどちらでも良かった。
だけど、俄然やる気の海月と一緒にホームセンターに肥料を買いに行ったとき、たわわに実る葡萄を想像をして、なんかいいなぁと思った。

縁側で、葡萄に小鳥が寄ってきたり海月が庭で剪定してる姿を見るのも、なかなか楽しいかなぁ、と。


「小夏ちゃん、たくさん実ったらワイン作ろうか」


残暑が厳しい。
なのに、海月はシャツを腕の関節までたくしあげ、額に汗を滲ませて棚という物を作っている。つるを誘引させ、ティー字に象ろうと、両手をいっぱいに広げて。

まだ制作途中のそれに、海月のがっしりとした腕が絡みつく様を、わたしは部屋のなかから腕を組んで眺めていた。


「無理だよ。作り方わかんないし」
「大丈夫。ちゃんと調べといてあげるから」


元から切長の目を、三日月みたいな形に細めるのは、傾き始めた太陽が眩しいからではなく、この人の癖。


「それより、少し休んだら?」


海月の笑顔に目を奪われていたわたしは、「冷たいレモンティーを飲もうよ」取り繕いの笑顔を浮かべる。

葡萄よりも檸檬よりも、わたしが一番欲しているのは。

本当は……。


「うん。今そっち行く」


シャツの胸元をつまんでぱたぱたと風を通した海月は、「ここから入ってもいい?」窓越しにわたしの正面に立った。


「え……」


海月のスニーカーには、土壌がたっぷり付着している。ズボンもシャツも、汚れている。


「ちゃんと玄関から入って来てよ、土が家んなかに落ちるから」


と言い、振り返ろうとした瞬間、すでに片方の膝を窓の縁に乗せていた海月に腕を引かれた。
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