mimic
× − × − ×


朝から雨が降っていた。

わたしはその雨が何時から降り始め、どの程度雨脚が弱り、日が昇りまた屋根を叩きつける雨粒が大きくなった、そのすべてをつぶさに知っている。
海月の布団のなかで、聞いていたからだ。

一睡もしなかったわたしが得たものは、
なんの役にも立たない過ぎた雨雲の情報と、ひとりきりに戻った手応え。

こんな風に一晩中、ただ天気が移り変わることを体感し、朝がくるのを確認したのは、おじいちゃんが亡くなって以来。

ときどき尖った白波が押し寄せるように、体の底から涙がぶわっと感傷が込み上げてきて、無性に泣きたくなって、海月の匂いがするタオルケットを頭からかぶった。余計に泣けた。

部屋が明るくなり、バイトのシフトは入っていなかったので、布団から出ると裸足でひたひた床の冷たさを感じて居間に行き、金魚たちに餌をやった。
カーテンを開けると、庭の木々に冷たい雨が降り注ぎ、イチイの小さな葉がこんもりと深い緑に塗り替えられたように見えた。
でも、雨で薄暗い庭は全体的に冬枯れに向かう寂寥の雰囲気が増し、セピア色に処理された風景画のようだった。

雪囲い、どうしようかな……。

冷えるのでソファに置きっぱなしだった海月のパーカーを羽織る。まだ抱かれているように錯覚して陶酔して、すぐ落ち込む。
飽きない負のローテーションにそろそろ慣れなきゃ、と自暴自棄に思った。

魂が抜けたように一日ソファで項垂れてやり過ごしていたら、突然携帯がメッセージの受信を知らせた。
短い通知音に体が弾み、わたしは腰を浮かせた。すぐにテーブルに手を伸ばして掴み、確認する。


「なんだ……千葉さんか」


乾いた唇からは自分のじゃないみたいな嗄れた声が出た。
メッセージは歓迎会の出席について、釘を刺す内容だった。
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