冷徹騎士団長の淑女教育
バスルームの向こうは、ベッドルームだった。天蓋付きの大きなベッドに、細かな模様の彫りこまれた高価そうなチェスト。窓際には机と椅子が置かれており、その少し手前には臙脂色のビロード生地を張ったソファーまである。

花模様の刺繍された薄桃色のカーテンに、同じ布地で作られたベッドカバー。見たこともないくらいに美しく豪華な内装に、クレアはしばらく呆然としてしまった。

「少し大きいようですね。ですが、すぐに背も伸びるでしょうし、丁度よくなられるでしょう」

レイチェルは、今度はクレアの着付けにとりかかっていた。着たことがないほど滑らかな肌触りのシュミーズに袖を通し、輝くようなエメラルドグリーンのドレスを着せられる。

「さあ、完成です」

レイチェルに姿見の前まで連れて行かれたクレアは、自分の姿を見て目を見開いた。




薄汚れていた肌が光を灯したかのように明るくなり、痛んでいた赤毛もしっとりと落ち着いている。やせっぽちな枝のような体も、こうして豪華なドレスに包まれれば、いくらか女の子らしく見えた。

生まれた頃から邪険に扱われてきたせいか、こうも親切にされると、逆に怖くなる。いたたまれなくなったクレアは、ついにレイチェルに問いかけた。

「……どうして、私にこんなことを……?」

「アイヴァン様の、ご命令だからです。アイヴァン様は私に、この先毎日あなたのお世話をするように命令なさいました」

「毎日……?」

ええ、とレイチェルは自信に満ちた笑みを浮かべる。

「あなたはこれから、このアイヴァン様の別宅にお住みになるのです」
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