冷徹騎士団長の淑女教育
「緊張で、気絶するかと思ったわ。私、変な風に思われていないかしら」

王妃との謁見を終え、ホールの中ほどに戻りながらクレアが胸の内を吐露すると、隣にいるエリックが「大丈夫だよ」と答える。

「彼女は、君を気に入っている。僕を見る目は冷ややかだったけどね」

「そう? まったくそうは見えなかったけど」

「彼女は賢いからね。一見して、そう見えるだろう。だけど僕には分かるんだ。僕だって賢いからね」

肩をすくめて、おどけてみせるエリック。冗談なのか何なのか、クレアは最早分からなくなっていた。

「でも、どうして王妃があなたを冷ややかに見る必要があるの?」

「僕の家には、よからぬ噂が多いからね。まあ、君にはあまり知られたくないかな」




エリックの答えに引っ掛かりながらも、ホールを行きかう人々に視線を走らせていたクレアは、そこで生気を吸い取られたかのように動けなくなる。

ざわめく貴族たちの向こうに、見覚えのあるシルエットを見つけたからだ。

金模様の施された群青色の騎士団服に、漆黒の下衣に包まれたスラリと長い足。ホールに集まる人々よりも頭一つ分抜き出た長身と、遠目からでも分かる鍛え上げられた上半身。

――それは、まぎれもなくアイヴァンだった。
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