冷徹騎士団長の淑女教育
凍り付いたように動きを止めたクレアに「どうかした?」と不思議そうに問いかけるエリック。

やがてクレアの視線を追った彼もアイヴァンに気づいたようで「これは、計算外だったな」と呟いた。

「彼は、国境の警備に行っているとばかり思っていたけど」

クレアだって、そう聞いていた。まさかこんなところで、それもこんな形でアイヴァンと出くわすだなんて、思ってもみなかった。




再々アイヴァンとの約束を破ったクレアを、アイヴァンは今度こそ見放すかもしれない。さらには極力人と関わるなと指導されているのに、今宵は幾人とも挨拶を交わし、王妃にまで謁見した。エリックに騙されそそのかされたとはいえ、完全なるアイヴァンへの裏切り行為だ。

その上アイヴァンは、美しい女性を連れていた。

深紅の豪華なドレスを身にまとったその女性に、クレアは見覚えがあった。以前、アイヴァンの馬車に同乗していた女性だ。あの夜会嫌いのアイヴァンが同伴しているところから考えるに、婚約者と考えるのが妥当だろう。

ドレスと同色の扇子を口もとにあてがい、色香の漂う流し目で辺りに目を配っている。

二重のショックで、クレアは息をするのもままならない。




すると、ふいにアイヴァンの連れの女性と目が合った。おそらく彼女も、他の令嬢同様、大公子息であるエリックが女性を連れていることに目を止めたのだろう。

扇子裏で彼女がアイヴァンに何かを囁き、言葉に導かれるように、アイヴァンがこちらに視線を向ける。

談話に興じる数人の貴族を隔てて、クレアとアイヴァンの視線が絡み合った。
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