冷徹騎士団長の淑女教育
礼儀正しいクレアを、ダグラス執務官長は満足げに見つめていた。それから、背後にいる御者らしき男にクレアの荷物を馬車に詰め込むよう言葉をかける。

「それでは参りましょう、クレア様。積もる話は、邸でお聞きできたらと思っております」

壁際に置かれた柱時計に目をやりながら、ダグラスが言った。

「あの、アイヴァン様は来られないのでしょうか?」

「クロフォード騎士団長は、抜けられない業務があるようです。あなたをお連れする役目は、私に任せるとおっしゃっていました」

「そうでしたか……」



覚悟はできていたが、やはりアイヴァンには会えずじまいのままここを発たなければならないようだ。

「クレア様! どうか、お元気で……!」

「レイチェル、そのうち必ず会いに来るわ」

泣きじゃくるレイチェルを抱きしめ、クレアは穏やかに微笑む。十年を過ごしたこの邸とも、もうお別れだ。

これからのクレアは、一人で強くたくましく生きて行かねばならない。

アイヴァンが求める、理想の淑女として。



ダグラスが乗ってきた二頭立ての四輪馬車に乗り込み、窓際でレイチェルとの別れをしばしの間惜しむ。

やがて馬車は、朝の澄んだ空気が漂う道を、クレアの新しい住処に向けて走り出した。
< 152 / 214 >

この作品をシェア

pagetop