冷徹騎士団長の淑女教育
深いため息をついたのち、アイヴァンはもう一度窓の外のクレアを眺める。

雪のような肌に、大きな褐色の瞳、半開きの薄桃色の唇。風になびくプラチナブロンドの髪は絹のように滑らかで、太陽光を受けて淡く輝いている。

彼女を見ているだけで胸が苦しくなるこの感情が恋だというのなら、この苦しみを甘んじて受け入れなければならない。




彼女は、決して触れてはいけない存在だ。

彼女と自分には、守るべき立場がある。その立場を、お互いに全うしなければならない。

この感情は、死ぬまで自分の胸に留めよう。

揺ぎなき強靭な精神で、この想いを封印しよう。




(だが、誰も知らぬところで、全身全霊で彼女を守ってみせる)

脳裏を過ったのは、エリックの顔だった。

フィッシャー大公家には、良からぬ噂もきく。前々から、アイヴァンは意図してフィッシャー家の人間をマークしていた。だが、本家の嫡男であるエリックだけはノーマークだった。

腹黒い人間の多いフィッシャー家の中で、エリックだけは放蕩もので気さくとあって、油断していた。よりにもよって、クレアに接触していただなど、思いもよらなかった。

エリックとクレアの出会いが、偶然なのかそうでないのかは分からない。

だが、恋愛感情は差し置いても、彼を遠ざけ彼女を全力で守らねばならない。

アイヴァンは決意を固めると、しばらくの間窓の外のクレアを見つめた後で、いつもの冷徹な騎士団長の顔を取り戻した。


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