冷徹騎士団長の淑女教育
どうやらアイヴァンが哀れな子供を拾ったのは、クレアが初めてではないようだ。ベンという先輩がいたことを、クレアは初めて知る。

「そうだったのね……」

アイヴァンとベンの子供時代のことをぼんやりと想像していると、それに答えるようにレイチェルが訥々と語り出した。

「アイヴァン様は、決して順風満帆にお育ちになったわけではございません。端から見れば恵まれているように見えるかもしれませんが、実際は違いました。幼くしてお母さまを亡くし、クロフォード家ではずっと孤独に過ごされていたのです。あのような厳格な気性になられたのも、孤独な少年時代が影響してのことでしょう。自分に厳しくなければ、アイヴァン様は生きていけなかったのです」

昔を思い出すように、レイチェルがエプロンの端でそっと涙を拭った。

今まで知りえなかったアイヴァンの過去に、クレアの心が揺れ動く。

クレアは、強いアイヴァンしか知らなかった。だが実際は、彼もずっと弱さと葛藤してきたのだろう。

それを微塵も感じさせない彼の頑固さをまた、無性に愛おしく思う。





「それでもアイヴァン様は、優しい心をお忘れではなかった。ベンを助け、そしてクレア様をお助けになった」

皺の刻まれた瞳に優しい眼差しを浮かべるレイチェル。
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