冷徹騎士団長の淑女教育
そこでふと、レイチェルは何かを思い出したような顔をした。

「そういえば、アイヴァン様は今夜来られないかもしれないと言っておりました」

「……そうなの?」

エリックとのことでクレアに愛想をつかしてしまったのかもしれないと、クレアは不安になる。

「ええ。このところ王宮内がゴタゴタしているようでして……。なんでも国王陛下の体調が優れず、統率がとれていないのだとアイヴァン様はこぼしておられました」

「国王陛下が? まあ……」

アイヴァンが来られないのはクレアが原因ではないと知り、ひとまずホッとしたものの、これはこれで心配だった。

この国の王と王妃の間には、子供がいないと聞いた。だとすると、次期王位継承者はどうなるのだろう?



「もしもの場合、この国はどうなるのでしょう……」

バロック王国からここユーリス王国に移り住んで十年と少しだが、クレアはこの国がすっかり好きになっていた。

この国は、下級層に対する制度が充実している。クレアがバロック国でそうしていたように、子供が長時間働かされるようなことはないと聞いた。

そんな弱い者を労る考えが、この国には存在する。国王が変わってしまったら、何もかもがガラリと変わってしまうのだろうか?

「おそらく、次の国王にはフィッシャー大公がなられるでしょうね。あるいは、政治手腕のある王妃様か……。ですが、王妃様が継いだところでお世継ぎがいないことに変わりはありませんから、いずれにしろフィッシャー家のどなたかが王位を継ぐことになるでしょう」

「フィッシャー家……?」

クレアは、はっと口を閉ざした。

フィッシャー大公家は王家の血筋を引く由緒正しき家系だ。

三世代前、剣術に長けた兄弟が、それまでこの辺り一帯を牛耳っていた悪徳主を打ち破り、ユーリス王国を建国した。そして弟が王となり、兄は大公となって陰で弟を支え続けたという。

エリックは、その初代王の兄から繋がるフィッシャー家の子息だ。つまり次期国王の第一候補は、エリックの父親ということになる。





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