迷子のシンデレラ
智美の顔にも黒のレースと赤い飾りのコントラストが麗しいマスクが、おでこからこめかみ、そして鼻先から頬全体を隠す。
黒のレースの上に散りばめられた赤い飾りがルビーのように光り輝いていた。
その上で、口元を隠すカーテンのようなレース。
さすがの仮面舞踏会でもここまで顔を隠している者は珍しい。
にも関わらず、彼は迷わず智美の元へ歩み寄った。
近づくと周りから頭一つ分出ている高身長の彼と背の低い智美の身長差が際立つようだった。
「お手をどうぞ」
智美はスマートに差し出された手へ恐る恐る重ねた。
彼は満足げに口角を上げると重ねた手を力強く握って智美を引き寄せた。
「美しいドレスが君にとても似合っているよ。
せっかくだ。踊ろう」
動きに合わせて揺れる水色を基調にしたドレスは踊りたくて仕方ないと言わんばかりに数歩動いただけで華やいだ。
「でも、私、踊れないわ」
「大丈夫。僕に合わせて」
ごく自然に腰を抱く彼に躊躇しつつも体を預けた。
普段ならこんな大胆な行動をしたりしない。
それができるのは、仮面舞踏会の妖艶な雰囲気のせいなのか。