マイ・ディア・タイガー
サッカー部のようにスパルタ指導かと身構えていたけれど、今日の先輩はいつもより雰囲気が柔らかい。
その柔らかさが却って怖く、私が気まずそうにしているのを察してか、田中先輩は虎頭先輩に問う。
「先輩、今日優しいっすね」
「あ?」
「いや、もっとこうビシバシと…教えて貰うのかと思ってました」
その問いに心外だとでも言うように顔をしかめ、「うるせーよ」とそっぽを向いた。
もしかして、照れているのだろうかと考えが過った。まさか。あの虎頭先輩が?いやいや有り得ないでしょう。
しかし本当に微かに、ほんのり赤くなっている先輩の耳が見えて、私は心の中で「可愛い」と強く思ってしまった。
そんなふうに思ったなんて先輩に知られたら恐ろしいけれど、でも先輩が照れているところ、初めて見た。
可愛い。もっと見たい。
「勉強教えるのに厳しくしたら、嫌になるじゃん」
虎頭先輩の言葉に、はっと我に返る。
「部活は理由があって厳しくしてるけど、勉強は少し嫌だと思うとまじで嫌いになるじゃん」
「まあ、そうっすねー」
「俺が厳しくやって嫌いにさせたらどーすんだよ」
そう言って先輩は困ったように笑った。
虎頭先輩の傍にいると、先輩の人となりがよくわかる。
見た目に惹かれていく人も多いけれど、先輩の周りがいつも賑やかなのは先輩の人望があっての事。
面倒見がよくて、優しくて、「この人についていけば大丈夫」と何となく思わせ、惹きつけられる。
私は胸がきゅっと締められる感覚に気付かない振りをして、先輩の骨ばった手を見つめた。
「先輩、ありがとうございます。本当に」
「おー」
先輩と知り合って1年と少し。
無愛想で近寄りがたいところもあるけれど、虎頭先輩という人をどんどん知っていく度に、私の胸は小さく動いた。