Shooting☆Star
そういえば、結局、百香がスニーカーを履くのを、祐樹はあまり見たことが無い。
よっぽど足場の悪いロケ等の時はスニーカーを履いているが、普段の百香は好んでパンプスを履いていた。

「ユウくん、」
百香の声に、祐樹は「あ、ごめん、何?」と、聞き返す。
祐樹は百香と2人で買い物をしていた。毎年、ツアー中に立ち寄るこの街は、個人が工房で経営するハンドメイドの靴屋が多い。
そろそろ夏物も店頭に並び始める。
移動の日のフリータイム。せっかくだし買い物に行こうと、2人でダイチも誘ったのだが、なんだかんだと理由をつけて断られた。
百香は両手に持った夏物のハイヒールを、どっちがいいと思う?と掲げてみせる。
「ごめん、どっちも黒くて、オレには違いがよくわからないんだけど…」
そう前置きして「こっちの方が、妖精っぽくてオレは好き。」と、百香が手にしたものではなく、展示台に並ぶ、麦わら帽子みたいな素材にキラキラとしたビーズとリボンのついたウエッジソールのハイヒールを手に取る。
「妖精?」
「なんか、こういうの履いてそうだろ?妖精って。モモはこういうの好きじゃない?」
「好きだけど。仕事に履いていけないじゃん。」
百香は「そもそも、どこから出てきたの?その妖精って。」と、笑いながら、祐樹の渡したサンダルを試着する。
「似合う?」
「うん。似合ってる。」
出会った頃から15年も経つのに相変わらず、百香は妖精みたいだ。
ただし、使う魔法は強力だし、戦闘力もめちゃくちゃ高い。
取り立てて身体が小さいわけでもない。
この数ヶ月、休日を一緒に過ごしてわかったことがある。
百香は弱いわけじゃない。あの微笑みが、百香を小さく弱そうに見せている。
プライベートの百香は、あの微笑みをしない。そのかわり、仕事ではしないたくさんの表情をする。笑ったり泣いたり怒ったりと、忙しい。
「可愛いな…」
思わず口をついて出た祐樹の言葉に、百香は鏡を見ながら「うん。これ、買おうかな…」と呟く。
可愛いのは百香のことなんだけど。
そう思ったけど、それは言わずに黙って百香を眺める。

結局、百香は自分で選んだ黒いハイヒール2足と、祐樹の選んだそのサンダルを買った。祐樹は、百香の靴の入った大きな紙袋を持って、次はオレの靴ね、と空いた手を百香に差し出して歩き出す。
祐樹と手を繋ぐことに慣れた百香は、どこにいても自然と祐樹の手を取るようになった。
おそらくそれは好意ではなく、ただの習慣なのを少し残念に思いながら、祐樹は手を繋いだまま一歩前を行く百香に歩幅を合わせる。
「ダイチも来れば良かったのにな。」
楽しそうな百香を見て、祐樹は思わず呟く。
「うん。でも、ダイチは買い物、嫌いだもん。」
仕方ない。そう言って、百香は祐樹を見上げて寂しそうに笑った。
「仕方ないね。」
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