Shooting☆Star

☆8話☆

初めて百香と話した時の事を、祐樹は鮮明に覚えている。

その日、百香は紺色のスーツに白いブラウスを合わせていて、マーメイドラインのミニスカートは線の細い百香によく似合っていた。
テレビ局のスタジオの廊下ですれ違った百香の足元を見て、祐樹は思わず声を掛けた。
「マネージャーさん、えっと…百香ちゃんだっけ?」
先日、事務所での顔合わせの自己紹介で、確か拓巳と同い年と言っていたはずだ。
「モモって呼んで下さい。…モモセモモカで、どっちもモモだから。みんなそう呼ぶんです。モモって。」
ふんわりと微笑む百香は歳よりも幼いその見た目の割に、どこか落ち着いていて、育ちの良さそうな印象を受けた。
誰かに似ているな…そう思ったけど、それが誰かは思い出せない。
百瀬という苗字に知り合いもいないし。
「モモ、いい名前だね。」
そう言って祐樹は百香の黒いパンプスに視線を落とす。
「余計なことかもしれないけど。オレ、靴はスニーカーの方が良いと思うよ。マネージャーって立ち仕事だし、結構歩いたり走ったりするから…。」
「母は、これでいいって言ってましたけど…」
少し困ったように微笑んだ百香を、祐樹はなんだか弱そうな子だな、と思った。
“頼りない”ではなく“弱そう”だと。
ゲームなら、サポート系の魔法は使えるけど戦闘力の低い妖精みたいだ。
「でも、ご忠告ありがとうございます。ちょっと様子見て考えます。」
百香は素直に頭を下げる。
「モモちゃーん!悪いけど、ちょっとこれ手伝ってーーーー!」
遠くで拓巳が百香を呼ぶ。
「すぐ行きまーす!」
百香は振り返るようにして返事をすると、祐樹に向き直ってもう一度「ありがとう」と言って走り去っていった。
ああ、あの子、あの靴でも走れるんだ…。ほんとに妖精みたいだ。
祐樹はふと、自分の周りに居ないタイプだな、と思う。
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