偶然でも運命でもない
24.裏誕生日会
「あ、来た来た!遅いよ、二人とも。」
「岩井くん、ごめん!仕事が押しちゃって。」
響子は大袈裟に手を振る同期の岩井に、手を合わせる仕草をしてみせる。
後ろから支社長が「そんなに待ってないだろ?」と笑いながら顔を出した。
「ビール3つ」
馴染みの焼き鳥屋のカウンター席に3人で並ぶ。
端の椅子に座ろうとした岩井を響子が振り返った。
「あ、私、端がいい。」
「え、鈴木さんが真ん中じゃないの?」
「何で?」
「いや、だって、この並びだと、ムサい・ムサい・うるさい、になるだろ。」
岩井は、支社長・自分・響子の順番に指をさす。
「ムサい・うるさい・ムサい、なら、いいの?」
響子も真似をして、順番に指をさす。
「まあ、比較的、バランスが。ねえ、支社長?」
「どっちでもいい。あ、でも、写真撮るなら鈴木が真ん中の方が絵になるかもな。」
支社長の言葉に、岩井が満面の笑みを浮かべる。
響子は席を変わることを諦めて真ん中の椅子に腰をおろした。
「はいはい。またSNSですか。真ん中座りますよ。真ん中。そのかわり、ケーキも真ん中いただきますからね。他人の顔でイイネを稼ごうとしないでくださいよ。」
今日は5月生まれの裏誕生日会だ。
誕生日のちょうど半年後。一年の裏側の誕生日を祝う会。
だから、裏誕生日会。
本来なら11月にやる予定だったのだが、3人とも忙しく12月は忘年会があった為、1月に持ち越してしまった。
数年前、響子が面白半分で企画したこの会は、岩井が本社に転勤した今も、こうして地味に続いている。
運ばれて来たビールを手に乾杯する。
支社長は自撮りでその姿を写真に納め、妻のヒロコさんにメッセージを送る。
大将が適当に出したツマミに手を伸ばしながら、響子は上司の姿を、いつもマメだな、と思う。
「そういえば、支社長のところのお子さん、今いくつですっけ?」
「俺の子じゃないけどな。18だよ。受験生。」
「あー。じゃあ、大変な時期ですね。」
18歳、受験生。そういえば大河も同じくらいだ。あんまり意識したことがなかったけど。
「あいつ、進学する気あるのかなぁ?」
「話さないんです?そういうの?」
「あんまり。あ、でも、学校の話とかはするよ。」
「へぇ。彼女とか?」
「彼女はいなそうだな。でも、なんだか好きな人はいるらしい。」
「仲良いんですね。そういう話が家庭で出来るなんて。」
「親子じゃないからな。」
「それもそうか。」
「で、イマドキの高校生の恋愛って、どんな感じなんです?」
「他所の子供より、お前らはどうなんだよ?二人共、そろそろ身を固める歳だろ?」
その言葉に、響子と岩井は顔を見合わせる。
「支社長、それはちょっと古いですね。」
「うんうん。それはちょっと古いですよ。」
「相手、居ないの?はーん。居ないんだな。いいか、独身ども。結婚はいいぞー!」
はしゃぎ出した支社長のドヤ顔を見て、何故か、ふと、大河が笑う横顔を思い出した。
駅の改札で、ホームで。響子を見つけて微笑む大河の姿。
ゆっくりと大股で歩く後ろ姿。
響子よりもずっと歳下なのに、同年代の友達みたいに、くだらない話にも付き合ってくれる優しい青年。
「居ます。」
「えっ、鈴木さん、彼氏いるの?ちょっとショック。」
「え、何、岩井、鈴木のこと狙ってたの?」
「いや、全然。ただ、最近ひとりだってきいてたから。」
二人のやりとりに、響子は笑って続ける。
「まだ、付き合ってないんです。それに、多分ずっと、私の片思い。」
ヒューっと、支社長が口笛を吹いた。
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