人狼だぁれだ
「あたし、ルシード・エミル!15歳なんだ。良かったら仲良くしてね。それで、貴方の名前は?」

キラキラと希望に満ちた目でこちらを見てくる。ルシード、と名乗った彼女は穢れを知らないような笑顔で返答を求めている。逃げられないな、と悟った私は少し面倒くさくなり、投げやりに答えた。

「……メイ・アルファリオン。歳は23です。どうぞよろしく。」

ふーん、とルシードが言い、私を舐めまわすように眺めてくる。気持ち悪くなり、思わず顔を引き攣らせる。しばらくすると、顔を上げ、ぱっと顔を輝かせ、顔に合わないことを口にする。

「メイって口下手なんだね!」

「はぁ?急に何言ってるんですか」

「えー、なんか友達いなそー」

「そういうこと言っちゃダメって習いませんでした?まぁ、私学校行ってないんで知りませんけど。」

「習ってない!から大丈夫だね!やーい!メイの友達無しー!」

「あんた、ほんとイライラしますねぇ……。」

私がため息をつくと、ルシードは少し悲しそうな顔になり、くるっと後ろを向いた。

「……あたしね。この監獄に来てからずっと、一人ぼっちだったの。だから、メイとはお友達になりたいなって。初めてのお友達になって欲しいなって、思ってるの。嫌だったら別にいいんだけど……」

涙を拭うような仕草をし、口に手を当てる。はん、と私は鼻で笑いかける。そんな色仕掛けじみたこと、この私に通じるとでも?

言いたかったけど、言えなかった。だって、私も一人ぼっちで、今まで殺人鬼として扱われて、友達なんているはずがなかったから。

今まで私が殺人鬼とは知らず、何度か友達になろ、って言ってくれた子はいた。けれど、アイツのせいで。友達なんて作れなかった。作ったらその子が殺されるから。

でも。もうここにアイツの手は届かない。なら。この子が私を殺人鬼だって知らないなら。

少しの間なら。私は______。

「友達を、作ってもいいのでしょうか」

「え?何か言った?」

「あ、いえ。なりましょう。そのお友達とやらに。」

「…………本当?」

彼女が不安げにこちらを見てくる。明らかにこちらの出方を疑うような、そんな表情だった。私はそれを見越した上で、こくりと頷く。すると、ルシードは先程までとは打って変わった満面の笑みを浮かべ、えへへ、とピースした。

「やったー!」

「まぁ仮契約ですからね。一応友達ということにしておいてあげますから」

「ふふん!それでも友達は友達。よろしくね、殺人鬼、1000人殺しのメイ!」

……………さっきの発言、撤回しようかな。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
それから。私とルシードは友達となった。

と言っても特別なことをした訳では無い。

看守の目を盗んでお喋りしたり、食堂でお互いの苦手なものを分け合ったり。私にとっては全てが初めてでとても輝いて見えた気がした。ルシードも同じだったようで、私が見ている時はずっと、笑っていた。

それから新しい友達も出来た。ルックス・ライムントという男と月瀬水羽という女。二人とも少しおかしいけど、まぁいい友人だろう。

ルックスはドイツ人らしい。だが、矢張り私と同じようで、各国の言葉を喋れるようだった。見た目が金髪男子、碧眼ということもあり、だいぶチャラく見えるが、意外に堅実だということがここ数日で分かった。話してる時はルシードと話すぐらい楽しいが別に好きな訳では無い。断じて。……いや、多分。

水羽は日本人。漆黒の髪に赤い瞳という、なんとも言えない見た目だ。しかもそれだけならまだいいのだが、水羽は顔半分をオペラ座の怪人で出てきそうな(実際に見たことは無いが)仮面で覆っている。水羽曰く、「これが一番落ち着く」だそうだ。水羽は日本語以外をまるっきり話せない。ので私達が日本語に合わせて話している。ルシードも語学は堪能のようで日本語は話せた。ここ数日で分かったのは水羽はドMだと言うことだけだ。ことある事に「ゾクゾクするね……」とかそういう単語をグロい話の時に唐突にしてくる。正直、今まで会った奴の中で一番イカれてると思う。

ここに来て数日。私はだんだんここの生活に慣れてきていた。殺される、なんてこと、すっかり忘れていた。

それから更に数日後。

私達は食堂でいつものように朝御飯を食べていた。

「ってことがあってね!まぁ、その時僕は逃げちゃったんだけど……逃げなきゃよかったかなぁ……?」

「いやいや。逃げて正解ですよ」

「メイの言う通りだな。逃げなきゃ水羽、死んでたぜ?」

「あー、でも水羽にとってはそれがいいんじゃない〜?」

「ルシードの言う通りですね」

そんな不毛な会話をしながら、食事をしていると。

ジリリリリリリリリリリリリ!!!!

大きくけたたましく、スピーカーからサイレンが食堂中に鳴り響いた。思わず、びくり、と体が跳ねる。ルックスがからかう。

「こんなのでビビっちゃって……メイは可愛いなぁ…」

「やめてください、ルックス。吐き気と寒気が止まらなくなります。」

「酷っ…………………それにしても……」

「うん、なんっか騒がしいねぇ」

ルックスの言葉を引き継ぐように水羽が周りを見渡す。つられて見渡すと普段は出てこない筈の看守達が慌てた様子で廊下を走り回っていた。珍しいなぁ、と他人事に思っていると水羽が内緒でここに持ち込んだという携帯がピコン、と音を立てた。

実は水羽の携帯は、この施設の機械全てをハッキングしてあり、何かシステムに異常があった場合は知らせてくれるのだと言う。

まさかそれじゃないだろうか。そう思って水羽を見ると、水羽は信じられない、と言った表情を浮かべ、青ざめたあと、その顔のままこちらを向いた。ルシードが何が起きたのか理解してないらしく、底抜けて明るい声で聞いた。

「ねぇねぇ、何が起こってるの?」

「………かなぁりまずいかも。」

「それってどう言う……」

「施設のプログラミングが全て読まれてる。僕のセキュリティももうそろそろで破られるっぽい」

「はぁ!?マジかよ……」

「一応対応はしてるけど……このままじゃ、施設ごと乗っ取られて、僕達全員やられちゃうかも………ふふ」

「笑ってる場合ですか」

そう言って水羽に突っ込む。水羽の顔をよく見ると、頬の筋肉が引き攣っていた。どうやら私たちが思っているより大分、やばい状況らしい。

「……Tá súil agam nuair a bheidh an Guy nach
…」

「え?メイ、なんて?」

「……なんでもありません。それよりルシード、いつもの髪飾り、どうしたんですか。蝶々の。」

「あー、あれ、ついてない?」

「えぇ。」

するとルシードは見たこともないような形相になり、ちっ、と舌打ちをし、それから私の視線に気付いたのか慌てて表情を作り、困ったような笑顔になる。

「多分、お部屋に置いてきちゃったんだと思う!取ってくるね」

「ま、待って」

ルシードが走りかけた瞬間、思わず声をかける。何故止めたのか、自分でも分からない。何か言わなくちゃ、と思い、頭に浮かんだ言葉をそのまま伝えた。

「あの……気をつけてくださいね。テロリストとかいるかもしれませんし」

その言葉を伝えた瞬間、ルシードの大きい1つ目が更に大きく開かれた。それから目を細め、口元に笑みを浮かべた。

「……大丈夫だよ。メイは心配し過ぎだなぁ」

「だといいんですけど。」

ぼそり、と告げた言葉にルシードが苦笑する。それから私に手を振って、たたたっ、と小気味よく走り出して行った。と、その瞬間、水羽は目を大きく見開き、聞いたこともないような低い声で、焦りを募らせたように呟いた。

「嘘……僕の最後のセキュリティが…破られた……」

「え、それってどう言う……」

私が聞こうとした瞬間、ぶつり、とスピーカーが音を立てた。そして、スピーカーからは無機質な機械音が私達の耳へと入り込んでくる。

「あー、あー、マイテ、マイテ。……聞こえてますね。改めましてようこそ、皆様。リチャードの墓場……いえ、貴方達の墓場へ。」

「私達の墓場……?」

「……第6秘密主義専門セキュリティパスコードN0259まで…!?尋常じゃないよ、このハッカー。」

水羽が無機質な機械音を聞き、悔しそうに顔を歪める。言ってる意味は私にはわからないけれど、危険なことになってる、というのだけは唯一分かった。機械音は喋り続ける。

「今から貴方方には人狼ゲームをやっていただきます。勿論、命を懸けた本物の、ね。最後まで生き残った者には、ここから脱出し、脱出した後の生活の保証もしてあげましょう。」

「はんっ、そんな簡単にほいほい命を差し出す奴がいるかって話です。それに理不尽すぎます」

「そうだな。俺もメイの言う通りだと思う。人狼ゲームなんて馬鹿馬鹿しい。」

ルックスが私の発言に同調していると、無機質な機械音は私たちの発言を聞いたように、乾いた笑い声を立てたあと、また説明をし出す。

「理不尽?そんなことはありませんよ。貴方方だって、そうやって理不尽に何人もの命を奪ってきたのではないでしたっけ?特に、メイ・アルファリオン。君は1000人殺しの化け物だろう?」

「何故私がここにいることを知っている……?」

「そんなのちょいとハッキングすれば簡単なものさ。……さて、話を戻しましょう。貴方方は従うしかありません。もし、従わないというのならば……」

そこまで言うとあははははっ、と狂った笑い声が聞こえてくる。それと同時に食堂の扉が勢いよく開いた。扉の前に立っているのは黒服マスクの警察の様な格好をしたものと………

「ルシード!!!!!」

腕を後ろで縛られているルシードだった。唇を噛み締めている。私は思わず叫ぶ。

「おい!ルシードを離しなさい!」

「無駄です。貴方がゲームをやらないと、貴方方がゲームをやらないと、この方はここで死にます。」

キッパリと声の主は言う。ここまで来るとむしろ清々しい。ルシードは"目"をキョロっと此方へ向け、助けを求めるように目を細めた。水羽が覚悟を決めたように一歩踏み出す。

「……私は参加するよ、このゲーム。」

「………本気、ですか?」

「うん。ルシードを助けるためだもん。私が死んでも、問題は無い。」

「大ありですけどね。ですが……」

「あぁ。珍しく同意見だ。俺も、ルシードを助けるために参加するよ。」

「こちらの意見は纏まりましたね。……さて、他の野郎どもはどうでしょうか?」

私が振り返ると、他の囚人達も同じ気持ちだったようで「おぉーーーっ」と威勢のいい声を張り上げた。……まぁ、あいつらはルシードの為じゃないんでしょうけど。
< 3 / 3 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop