ピ リ カ(動物と会話する女の子)
九「ピリカと佐伯」
 
 ピリカはその後、鎌倉見物を二日間楽しんだ。 今日は横浜中華街と元町辺りに行こうと東横線の横浜で降りた。 ここは渋谷や新宿と雰囲気が違う…… 私はファッションのことよく知らないけどこの違いはわかる。 なんだろう? 

山下公園で港を眺めながら潮の香りを感じていると、一羽のスズメが羽を引きずりながら歩いているのがピリカの目に入った。

まわりの人に気を遣いながらそのスズメに声を掛けた。

「あなたどうしたの? 羽が痛むの?」

「えっ、……? 人間さん話し出来るの?」

「えぇ……」

「昨日、トンビに襲われたの、なんとか逃げた。 でも羽が思うように動かない」

目を凝らして見てみると翼の関節に不具合が診てとれる。

「調子悪いのは左の羽ね、わたし触れてもいいですか?」

「どうする気?」

「もしかしたら痛みが取れるかもしれない……」

「でも…… 人間はチョット」

「それはあなたの自由だけど、そんな状態でトンビや猫に襲われでもしたら、もっと大変なことになるよ。 痛いならこちらにおいで!」多少強い口調でいった。

スズメは恐る恐る近寄ってきた。

「ど~れ?」

軽く触れた。 あっ、折れてるどうしよう? 骨折は初めての経験。 ヤバッ、これチョット大ごとかも?

「ルー、どうしたらいい? 教えてちょうだい」

「いつもと同じ」

「ってことは? よし……」

ピリカはスズメの小さな羽に手を当てた。

スズメは少しのあいだジッとしていたが「あっ、痛いのが治まってきた」

集中力が途切れそうになった。

「ごめん、少し黙ってくれる?」

「あっ、羽、ちゃんと動く…… なんで?…… どうして?……」

「あんた、すこし静かにしなさいな!」

「怒ってますか?」

「怒ってませんから少し黙って」

「怒ってる、怒ってる」

「あのねっ! 止めようか?」

「ごめんなさい…」

「はい、終り! でも完全に治るまでまだ時間がかかるから、無理して遠くまで飛んじゃ駄目」

「ありがとう……」

「翼を大事にしてね」

スズメは木の枝に心配そうに待ってる仲間と合流した。

しばらく公園を散歩していると又、スズメが一羽近寄ってきた。

「今度はどうしましたか?」

「あのう~」

「おや? さっきのスズメさんと違う…… どうしました?」

「さっきやってたこと私の子供にもやってほしい……」

「えっ? いいけど、私は飛べないからここに連れてこられますか?」

「……」母スズメは黙った。

「子供さんはどこにいますか?」

「あの山の方です」

「まいったねぇ……」遠くにある山を眺めた。

その時「ルー、お願い」ピリカは念じた。

「ベンチに座る」

ベンチに座る? とりあえず空いてるベンチを見つけて腰をかけた。 母スズメはその後をついてきた。

ルーが「眼を閉じ母親に触って子供を念ずる」

「お母さん、こっちに来て子供さんを思ってちょうだい」

「母親を通じて意識だけ子供の所に飛んで手を当てる」

ピリカはルーの言われるまま従った。 次の瞬間、巣が視え小スズメと思われる鳥が確認できた。 ピリカの意識体は小スズメに手を当てた。 しばらくしてその小スズメが元気になってくるのがわかった。 集中が途切れたところで意識が戻った。

「お母さん、直ぐに子供の所に戻ってください」

母スズメは空に飛んで姿が見えなくなった。 ピリカはそのまま中華街に向って歩き出した。
中華街を見学して遅めの昼食を済ませ、また山下公園で海を眺めていると突然知らない男性に声をかけられた。

「すみません」

ピリカは声のする方に目をやった。 そこにはギターを抱えたレゲー風の髪型をしたおじさんが
立っていた。

「はい?」

「観ましたよ」

「えっ、何を?」

「午前中、あなたが二回もスズメとなにかしてるのを……」

ピリカとスズメのやり取りをこの青年に見られていたのだった。 なにかしてる? ということはスズメとの会話の内容はわからないのかも。

咄嗟に出たことばが「ええ私、スズメ好きなんです」

「それだけですか?」

「それだけですけど……?」

「野生のスズメに手を触れてましたよね?」

マズイ……!

「フフ! 知ってますよ」

「なにがですか? あなた、なん、なんですか?」少し苛つき気味な演技をみせた。

「あれは、まさに会話ですよね?」

「あのねっ、鳥と会話なんて馬鹿げてます。 失礼します!」

そう言い放ち足早に公園から立ち去った。

自分の軽はずみな行為を反省した。 でもせっかく来たんだから、気を取り直してショッピングしようと思い元町方面に戻った。 小一時間ほど買物をしながら歩いていると何処からか男性の歌声が聞こえてきた。 歌い手の顔は影になっていて見えないが、歌詞は聴き取れた。 

歌詞の内容を聴いて思わずピリカは足を止めた。 その歌詞の内容は……

♪スズメさんどうしたの?♪ 
♪羽痛むの? えっ、あなたスズメと話が出来るの♪
♪はい♪
♪昨日トンビに襲われたの♪
♪何とか逃げたけど羽が思うように動かないの♪
♪調子悪いのは左の羽ね。 私、触っても良いですか? ♪
♪どうする気ですか? ♪
♪痛みを取ってあげられるかもしれない♪
♪でも人間さんはチョット♪
♪そんな状態でトンビさんや猫さんに襲われでもしたら今度は大変♪
♪痛いならこっちおいで、私が癒してあげる♪」

ピリカは驚愕した。 午前中のスズメとのやり取りをそのまま歌詩にしてうたっていた。 あの人、わかってたんだ……このままここを立ち去ろうか? それとも、声を掛けようか? 迷っていた。
えい、これも旅の醍醐味。 ピリカは意を決し前に出ていった。 男も気が付いたらしくピリカにアイコンタクトしてきた。 歌い終わりレゲー風男はギターを置いた。

「やぁ、どうも……」

「どうも、わかってたんですね」

「うん、君の後ろを通りかかったら、会話が聞こえたのでついついみてしまった。 君の能力に驚いたよ。 僕も動物の言ってることは少し理解できるけど、君のように痛んだ羽を癒したり出来ない。その能力には驚いた。 あっ、僕は佐伯っていいます」

「私はピリカです」

「ピリカさんは東京の人?」

「違います。 札幌から夏休みを利用して旅行で来てるの」

「学生さんなんだ。こう見えても僕も同じ学生」

「はぁ? えっ! どう見ても三十歳前後にしか…… あっ、ごめんなさい」

「いえ、いつもいわれてることだから馴れてます」

ピリカは思った「どう見ても、あんたはとっつぁんです」と思ったがいうのを我慢した。 が目は柿の種のような形で笑っていた。

「ピリカさんはそれ以外にもなにか能力あるの?」

「いえ動物と会話できるだけです」

「いつごろから?」

「子供の時から気が付いたら」

「佐伯さんは?」

「去年ぐらいから徐々に」

「なんで歌ってるの?  歌手志望ですか?」

「いろんな人と出会ってみたくて、歌は趣味でやってます」

「そっか、で、楽しい?」

「結構ハマってます」

「頑張って下さいね、北の空から応援してます」

「もう行っちゃうの?」

「渋谷で約束があるから。 もうそろそろ行きます」

「せっかく話し相手が出来たと思ったのに残念だな…… 渋谷のそれ断れないの?」

「チョット無理です」私の断り文句ぐらい察してよね……内心思った。

「いつか札幌でも歌って下さい。 その時は是非ゆっくり聴かせて下さい」

別れを告げ渋谷に向った。 東横線の車窓から夕暮れの景色を眺め思った。 やっぱ、こっちは大都市……不思議な人がいる。 そして数日後帰路に着いた。


札幌に戻ったその足で倶知安の実家にお土産を抱え帰省した。

「モモただいま、ミロもユメもただいま」

「ピリカお帰り」モモが暑そうに言った。

ユメが眠そうに「ピリカお姉ちゃんお帰り」

「おや、ミロは? お出かけ?」

「ミロはミミ母さんと出かけた」

「そう、じゃあモモとユメにおやつどうぞ。 ハイ」

小屋の前におやつを置いて家に入った。

「ただいま~」

「おや、お帰り。 どうだった? ひとり旅……」

「うん、楽しかった~! 人が多いのを除けば」

「な~にいってるの。そんなこと初めからわかってるでしょ」

「うん、のんびり関東と関西を満喫したよ。 ハイ、これ鎌倉の鳩サブレ」

「ありがとう」

「ミミもミロも居ないようだけど元気なの?」

「元気良すぎ。 あの二匹は似たもの親子なの、朝から晩までフラフラ遊び廻ってるよ。 それに引き替え、ユメはどういう訳か犬のモモに似てるのよ。 人間でいう育ての親似ってな具合」

「ミミは相変わらずか……」

その夜、父親に旅の報告をし、二日後には札幌に戻った。

札幌の町は青く澄んだ空がここちいい季節となった。 そんなある日、午前中で授業が終り、友人の久美と大通り公園を歩いている時だった。 久美が出で立ちの変わった男を目にした。

久美が「あの男の人、なんかやばくない?」

久美の視線の先を見てピリカは目を疑った。 そして小さな声でピリカは言った。

「見なかったことにして、早く行こう久美! 悪いけど、私をあの人の視界から見えないようにしてくれる!」

久美は理由を聞かずに黙って従った。

「ピリカ、どうしたの?」大抵のことでは動揺しないピリカを知っているだけに久美は驚いた。

「シッ! あとで話すから」

そういいながら二人はその場を通り過ぎ、近くにあった喫茶店に逃げ込むように入り、コーヒーを注文した。

「さっきはゴメンね。夏に旅行した時、横浜で声を掛けられた人なの」

「えっ、あのオッサンに?」

「そう、あのオッサンに、なんか面倒くさそうなタイプだったから断り文句で『今度、札幌に遊びに来て下さい』って言ったの。 そしたら今、大通り公園にいるんだもの焦ったよ」

「なんでそんなこと言ったの?」

「だって、まさか札幌に来ると思わないもん」

「そっかあ~ それもそうよね、とりあえず無視しよう。 いくら狭い街だって外出しなければいいジャン。 ところで大学名を言ったの?」

「言ってない。 あっ……でも、獣医学部って言ったかも……?」

「あらら、獣医学部っていっちゃったの?  獣医学部はうちと酪農大しか無いでしょが」

「久美どうしよう」自分の言動のミスを悔やんだ。

「でも、ピリカに会いに来た訳じゃないかもしれないし分かんないよ」気休めにと考えた言葉である。

それから二日経った昼間、同級生の佐々木が「ピリカ、つい、さっき面会の人来たよ」

「面会?」内心嫌な予感がした。

恐る恐る「どんな人だった?」

「髪がレゲエ風な感じのオッサンだった」

「来た~! で、なんて言ったの?」

「外出中だからそのうち戻ると思いますっていったけど、ダメだった?」

「あっ、ありがとう」

ピリカは帰り支度を始め「ごめん、私、今日はこれで帰るから、その人が来たら気分悪くて帰宅たって言ってほしいの…… お願い!」

佐々木が「ピリカ、その人どうかしたの? ストーカーかなにか?」

「いや、そんなんじゃない。 横浜で少し立ち話しただけ。 立ち去ろうとしたらもう少し話そうって言われたのね、でもその気無いから断り文句で『時間がないので、いつか是非札幌に遊びに来て下さい』っていったのよ」

「そっかぁ、そんなこと言ったの?」

「まさか札幌に来ると思ってなかったから、その時札幌の大学生で獣医学専攻って言ってしまったのね」

佐々木は宙を見ながら「ピリカって平和ボケしてるんだから……わかった。 適当にあしらっておくから早く帰って途中気をつけるのよ」

ピリカは裏玄関からそっと飛び出し、正面玄関を避け、業者用出入り口に向おうとした瞬間だった。

後ろから「ピ~リカさん」

ピリカは恐る恐る振り返った。 そこには親しげに笑顔を振りまくあの男の顔があった。
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