ピ リ カ(動物と会話する女の子)
三「龍とピリカ」
放課後、親友の理恵が「わたし今週の土曜日、島牧村の賀老の滝を見に行くんだ。 ピリカも一緒に行かない? なにか用事入ってる?」
「賀老の滝かぁ…… 行きたいけどどうやって行くの?」
「お父さんが島牧村に用事あるんだって、そのついでだからお父さんの車で行くの。 お父さんが用事たしてる間の二時間位だけど、私達は滝を見物して弁当食べて待ってるの……どう?」
「うん、私も一緒していいの? ていうか行きた~い!」
当日の倶知安は朝から快晴。 絶好の日和に恵まれた。
ピリカは理恵の父親に「おじさん、お久しぶりです。 今日は宜しくお願いします」
「おう、ピリカちゃん。 一段と美人になったね…」
「そんなこと……そうですか? でもリエちゃんにはかないません」
「そりゃ、そうだけどね」にやけ顔でいった。
理恵はすかさず「お父さん! バッカじゃないの……たく」
三人は大笑いした。
「賀老の滝は、規模では北海道内随一なんだよ 。落差七十―メートルの幅三十五メートル。
流れ落ちた水は岩に砕け散るんだ。 だから滝壷が無い。 そしてこの滝には松前藩の財宝が隠されており、その財宝を龍が守護しているという龍神伝説が残されているんだ。
財宝を掘り出す者には龍の祟りがあるといわれてる。 人によっては龍が飛ぶのを視たという人もいるらしい。 まっ、こういう伝説は、まやかしが多いというから聞き流して下され……おぬしたちってか」
「お父さん、バッカじゃないの! なに、そのおぬしたちって、今度そんなこと言ったら口きいてやらないからね、たく……」
「勘弁して下され理恵殿」
こんな調子で道中はあっという間に過ぎ、二人は二時間ほど賀老の滝で父を待つことにした。
「ねぇピリカ、駐車場からけっこう歩くみたいね頑張ろう」
「うん、頑張ろう!」
約五百メートル整備された道が続き、賀老の滝入り口の看板があり、そこから先が二人には大変な道のりだった。 入り口のところから、突然山道になり急な坂と階段が多く、その階段も一段一段が同じ幅ではなく、広かったり狭かったり岩が飛び出ていたり段差が大きかったりとかなり大変な思いをして辿り着いた。 二人は滝を見上げた。
「これが賀老の滝か……圧巻だね、凄いね! 理恵」
「うん、本当に凄い。 途中お父さんのダジャレをヌキにしたら最高に素晴らしい」
二人はその場に足を止めじっと眺めた。
理恵が「ここでお弁当にしようか?」
「うん、いいね賛成!」
食べ始めるとピリカの側に三匹の蝦夷リスが寄ってきて「ねぇ、お姉さん。なに食べてるの?」一匹のリスが話しかけてきた。
「お弁当だけど、何か食べますか?」
「何あるの?」
「あなた達が食べられるのは、枝豆と豆ヒジキかな?」
ピリカはタッパの蓋に乗せてそっと差し出した「どうぞ」
リスは口の頬袋をいっぱいにした。
それを見ていた理恵は「ピリカ、あんたリスとも会話できるの?」
「いや、リスは初めて話したんだけど可愛いね」
「ピリカは動物とすぐ友達になれるんだね、っていうか? なんで話を交わす前に、むこうからピリカに近寄ってくるの?」
「動物はわたしのオーラを視ているみたいなのね。 それで危険ないって解るみたいだよ。 でも動物にもよるよ。 馴れないのはずっと馴れない」
「へ~、ピリカでもそんなことあるんだ」
「沢山あるよ、こっちもいちいち気にしないから」
「相変らずピリカは面白いね最高!」
「人間の側から見たら動物って優雅に見えるかもしれないけど結構大変みたいだよ。 基本楽しむっていうより捕食が最優先。 小動物は絶えず警戒心をもってるね、特に野生は半径一キロは警戒してるよ。 空まで警戒してる」
「私、思うんだけどね。鳥でも動物でも沢山の種がいるのに、どうやって自分の種や子供を判別してるの?」理恵の素朴な疑問だった。
「あれはねぇオーラが解るの。 種、独特の色か何かあるみたいだよ。 あと、匂いや声で判別してるみたい。 大体は解るらしい凄いねっていうか動物には当たり前。 あと、決定的に人間と違うのは死が人間ほど怖くないみたい。 死とはいつも隣り合わせにあるからかもしれない。 よく解らないけど」
突然二十m位先の藪がざわめいた。 と同時に獣臭い匂いがした。
リスが叫んだ「熊だよ! 熊よ、早く逃げて!」
「理恵、ここ動かないで。 私の指示にしたがって!」
理恵はなんのことか理解が出来ない。 藪から出て来たのは一頭のヒグマ。 二人を観察していた。
「熊さん、私達はあなたに危害を加えません。 それより、あなたがここにいることが人間に知られると殺されちゃう。 だから山深くへ戻りなさい」
「お前はだれ?」
「私はピリカ。人間です」
「見れば解る。わしは人間が嫌いだ」
熊は突然二本足で立ち上がり、ピリカと理恵を威嚇した。
「きゃ~!」思わず理恵は悲鳴を上げた。
ピリカは理恵の前に歩み出て両手を広げ「待って! 待ちなさい! 人を傷つけてはいけません。 山に帰りなさい!」
なおも熊は歩みを止めない、二人が怯んだその時だった。 滝の方向から黒い龍が突然熊の前に飛んできた。 その存在が熊の意識に話しかけた。
「ここはお前の来るところではない。 このまま、山奥に戻るのじゃ! 今後、人前に姿を現してはならぬ!」
それは威厳のある龍の意識。
熊が「……人間さん、驚かせて悪かった。 親が人間に殺されたのを見たんだ。 それから私は人間が怖いんだ。だから……」
そう言い残し熊は茂みに入っていった。
ピリカは熊に話しかけるのが精一杯だったが、今度は龍を目の当たりにし固まってしまった。
理恵が「ピリカ大丈夫……? 熊はもう消えたよなんでまだ固まってるの?」
そう、理恵には龍の姿が見えていないから自然な質問だった。
ピリカは固まったまま恐る恐る龍に話しかけた。
「私はピリカって言います。 こんにちは、龍神さんって呼んでいいですか?」
「わしにも名前はあるBANという。 因みに龍神とはいえわしは神ではないから誤解しないでくれ」
「そうですか、BANさんどうもありがとうございますおかげで助かりました」
「あの熊は危害を加える気はないようだ。 ただ、あんたらに驚いて威嚇しただけ、あの熊は人間に危害を加えることはない。 熊はいつも悪者扱いされるが、簡単に人間に危害を加えたりはしない。 人間は必要以上に驚きすぎる」
「BANさんというか龍は伝説の存在だと思ってましたが?」
「伝説と言えば伝説だ。 が、わしは人間界と神界の狭間の世界に存在する。 自然を司る存在なのじゃ」
「今日はどうして助けて下さったのですか?」
「ピリカ、お主がわしを呼んだのじゃ」
「……?私、咄嗟のことで解りません」
「ふふ、ピリカがこの世に生まれる前からの約束じゃよ」
「生まれる前ですか? えっ、生まれる前?」
ピリカには全然意味が解らなかった。
「ところで古いいい伝えにあるように龍、いやBANさんはここで今でも財宝を護ってるって本当ですか?」
「はは、それは人間が創作した伝説よ。 そういうことでこの滝に神秘性をもたせ神聖なものしたいのだろう、人間のよくやることじゃ」
「創作ですか?」
「そう創作。人間らしいやり方じゃ」
「ところで今日は私達を助ける為にBANさんは出て来たんですか?」
「いや、これをピリカに渡しに来たんじゃよ」
瞬間、龍は白い玉を口に咥えていた。
「ほれ、受け取りな」
その時、天に轟くぐらいの爆音が空一面に響きわたった。 龍は消えピリカは小さな白くて丸い石を握っていた。
「ピリカ……ピリカ、ピリカ」
「あっ、理恵ちゃん……」
「ピリカ、大丈夫なの?」
「何が?」
「何がって、あの後、意識がなかったでしょうが」
「意識が……? わたしの…? じゃあ龍が出て来たのは?」
「龍……どこに?」
「ここに」
「いつ?」
「今まで」
「……あのねぇ、ピリカはここで今まで気を失ってたの」
「うっそ? だってこの玉は? あっ無い……?」
そう、龍からもらったはずの玉が、手からいつの間にか消えていた。 それからふたりは辺りを探索して時間が過ぎた。
「もうそろそろ帰ろうか、ピリカ本当に大丈夫? ちゃんと歩ける?」
「うん、身体は何ともないよ」
二人は駐車場へ足を進めた。
「あ~着いたッと。 チョットしんどいね」理恵はピリカを気遣った。
「理恵ちゃんありがとう。 さっき私は全然気絶してなかったんだ。 実は龍と話しをしてたの」
「……龍と?」理恵は突然のことにビックリしていた。
「そう龍」
「あの、掛け軸とかお寺の天井などに描いてあるあれ?」
「うん、あれ!」
「うっそ! 気を失ってたあの時に?」
「私、熊の後からずっと正気だったけどたぶんその時」
「二~三分だったけど」
「うん、私にはもっと長く感じたけど」
「ねぇ、詳しく教えて」
「うん、あのねぇ~」
ピリカはさっきの出来事を理恵に聞かせた。
「へ~! 凄いことがあの短時間に起こったんだね、ピリカ凄いじゃん! でもその白い玉って何だろうね? 気になるけど……」
しばらくして理恵の父親が迎えに来てふたりは家路に着いた。
夕食後「ねぇ、お父さん」その日のことを父親に話した。
「で、どう思う?」
「どう思うって言われても、父さんも龍のことはよくわからないよ。 でも白い玉を貰ったっていうことは少し気になるな」
翌日曜日、この日は朝から倶知安町は羊蹄山からの冷たく強い風が吹き下ろされていた。
母親が「昨日とは打って変わり天気が荒れてるねぇ。 今日は家でビデオ三昧といこうかね・」
外では愛犬モモが珍しく遠吠えをしていた。
ピリカが「モモ、どうかしたの?」。
「ピリカ、いいところに来たね。 今日は朝から龍が羊蹄山を中心に飛び回ってる。 しかも激しく!」
「どれ?」と見上げた瞬間
龍が疾風と共にピリカめがけ襲いかかってきたかのようにみえた。
「あっBAN!」
その瞬間、ピリカの意識は昨日のように遠のいた。
「BANではないRON。 BANは私の仲間で賀老の主。 私は羊蹄地区の天候を司るRON」
「わかりました。、で、今日はなにを?」
「最近、羊蹄地区の土地と空気が澱んでいるから浄化をする。 外出時は気をつけてこれを初顔合わせの記念に……」
水晶のような玉をピリカの手に乗せてRONは消えた。 ピリカは我に返り手を見るとまた何も無かった。 これで二度目、龍の玉はいったい何の意味があるの? 全く理解できない……
「お父さん、お母さん。今日は外出しないようにだって。 モモもミミも嵐が止むまで小屋に入ろうね!」
外は台風なみの暴風雨に見舞われた。 翌日は澄み切った空気で日差しが痛く感じられた。 二日間で二度も龍と出会ったピリカ。
全然意味が解らないままピリカは登校した。
「ピリカ、おはよう」
「おはよう、理恵」
「その後、変わったこと無かった?」
「それがあったのよ。 昨日は羊蹄山の龍が山から下りてきてまた玉をくれたの、意味分かんないの……まったく。 私の頭どうかなりそう」
「でもピリカは動物と会話できる力があるからそれとなにか関係あるかもね?」
「う~ん、解らない? こんな能力無くてもいい……」
これから起こる不可思議なことをピリカは知るよしもなかった。
放課後、親友の理恵が「わたし今週の土曜日、島牧村の賀老の滝を見に行くんだ。 ピリカも一緒に行かない? なにか用事入ってる?」
「賀老の滝かぁ…… 行きたいけどどうやって行くの?」
「お父さんが島牧村に用事あるんだって、そのついでだからお父さんの車で行くの。 お父さんが用事たしてる間の二時間位だけど、私達は滝を見物して弁当食べて待ってるの……どう?」
「うん、私も一緒していいの? ていうか行きた~い!」
当日の倶知安は朝から快晴。 絶好の日和に恵まれた。
ピリカは理恵の父親に「おじさん、お久しぶりです。 今日は宜しくお願いします」
「おう、ピリカちゃん。 一段と美人になったね…」
「そんなこと……そうですか? でもリエちゃんにはかないません」
「そりゃ、そうだけどね」にやけ顔でいった。
理恵はすかさず「お父さん! バッカじゃないの……たく」
三人は大笑いした。
「賀老の滝は、規模では北海道内随一なんだよ 。落差七十―メートルの幅三十五メートル。
流れ落ちた水は岩に砕け散るんだ。 だから滝壷が無い。 そしてこの滝には松前藩の財宝が隠されており、その財宝を龍が守護しているという龍神伝説が残されているんだ。
財宝を掘り出す者には龍の祟りがあるといわれてる。 人によっては龍が飛ぶのを視たという人もいるらしい。 まっ、こういう伝説は、まやかしが多いというから聞き流して下され……おぬしたちってか」
「お父さん、バッカじゃないの! なに、そのおぬしたちって、今度そんなこと言ったら口きいてやらないからね、たく……」
「勘弁して下され理恵殿」
こんな調子で道中はあっという間に過ぎ、二人は二時間ほど賀老の滝で父を待つことにした。
「ねぇピリカ、駐車場からけっこう歩くみたいね頑張ろう」
「うん、頑張ろう!」
約五百メートル整備された道が続き、賀老の滝入り口の看板があり、そこから先が二人には大変な道のりだった。 入り口のところから、突然山道になり急な坂と階段が多く、その階段も一段一段が同じ幅ではなく、広かったり狭かったり岩が飛び出ていたり段差が大きかったりとかなり大変な思いをして辿り着いた。 二人は滝を見上げた。
「これが賀老の滝か……圧巻だね、凄いね! 理恵」
「うん、本当に凄い。 途中お父さんのダジャレをヌキにしたら最高に素晴らしい」
二人はその場に足を止めじっと眺めた。
理恵が「ここでお弁当にしようか?」
「うん、いいね賛成!」
食べ始めるとピリカの側に三匹の蝦夷リスが寄ってきて「ねぇ、お姉さん。なに食べてるの?」一匹のリスが話しかけてきた。
「お弁当だけど、何か食べますか?」
「何あるの?」
「あなた達が食べられるのは、枝豆と豆ヒジキかな?」
ピリカはタッパの蓋に乗せてそっと差し出した「どうぞ」
リスは口の頬袋をいっぱいにした。
それを見ていた理恵は「ピリカ、あんたリスとも会話できるの?」
「いや、リスは初めて話したんだけど可愛いね」
「ピリカは動物とすぐ友達になれるんだね、っていうか? なんで話を交わす前に、むこうからピリカに近寄ってくるの?」
「動物はわたしのオーラを視ているみたいなのね。 それで危険ないって解るみたいだよ。 でも動物にもよるよ。 馴れないのはずっと馴れない」
「へ~、ピリカでもそんなことあるんだ」
「沢山あるよ、こっちもいちいち気にしないから」
「相変らずピリカは面白いね最高!」
「人間の側から見たら動物って優雅に見えるかもしれないけど結構大変みたいだよ。 基本楽しむっていうより捕食が最優先。 小動物は絶えず警戒心をもってるね、特に野生は半径一キロは警戒してるよ。 空まで警戒してる」
「私、思うんだけどね。鳥でも動物でも沢山の種がいるのに、どうやって自分の種や子供を判別してるの?」理恵の素朴な疑問だった。
「あれはねぇオーラが解るの。 種、独特の色か何かあるみたいだよ。 あと、匂いや声で判別してるみたい。 大体は解るらしい凄いねっていうか動物には当たり前。 あと、決定的に人間と違うのは死が人間ほど怖くないみたい。 死とはいつも隣り合わせにあるからかもしれない。 よく解らないけど」
突然二十m位先の藪がざわめいた。 と同時に獣臭い匂いがした。
リスが叫んだ「熊だよ! 熊よ、早く逃げて!」
「理恵、ここ動かないで。 私の指示にしたがって!」
理恵はなんのことか理解が出来ない。 藪から出て来たのは一頭のヒグマ。 二人を観察していた。
「熊さん、私達はあなたに危害を加えません。 それより、あなたがここにいることが人間に知られると殺されちゃう。 だから山深くへ戻りなさい」
「お前はだれ?」
「私はピリカ。人間です」
「見れば解る。わしは人間が嫌いだ」
熊は突然二本足で立ち上がり、ピリカと理恵を威嚇した。
「きゃ~!」思わず理恵は悲鳴を上げた。
ピリカは理恵の前に歩み出て両手を広げ「待って! 待ちなさい! 人を傷つけてはいけません。 山に帰りなさい!」
なおも熊は歩みを止めない、二人が怯んだその時だった。 滝の方向から黒い龍が突然熊の前に飛んできた。 その存在が熊の意識に話しかけた。
「ここはお前の来るところではない。 このまま、山奥に戻るのじゃ! 今後、人前に姿を現してはならぬ!」
それは威厳のある龍の意識。
熊が「……人間さん、驚かせて悪かった。 親が人間に殺されたのを見たんだ。 それから私は人間が怖いんだ。だから……」
そう言い残し熊は茂みに入っていった。
ピリカは熊に話しかけるのが精一杯だったが、今度は龍を目の当たりにし固まってしまった。
理恵が「ピリカ大丈夫……? 熊はもう消えたよなんでまだ固まってるの?」
そう、理恵には龍の姿が見えていないから自然な質問だった。
ピリカは固まったまま恐る恐る龍に話しかけた。
「私はピリカって言います。 こんにちは、龍神さんって呼んでいいですか?」
「わしにも名前はあるBANという。 因みに龍神とはいえわしは神ではないから誤解しないでくれ」
「そうですか、BANさんどうもありがとうございますおかげで助かりました」
「あの熊は危害を加える気はないようだ。 ただ、あんたらに驚いて威嚇しただけ、あの熊は人間に危害を加えることはない。 熊はいつも悪者扱いされるが、簡単に人間に危害を加えたりはしない。 人間は必要以上に驚きすぎる」
「BANさんというか龍は伝説の存在だと思ってましたが?」
「伝説と言えば伝説だ。 が、わしは人間界と神界の狭間の世界に存在する。 自然を司る存在なのじゃ」
「今日はどうして助けて下さったのですか?」
「ピリカ、お主がわしを呼んだのじゃ」
「……?私、咄嗟のことで解りません」
「ふふ、ピリカがこの世に生まれる前からの約束じゃよ」
「生まれる前ですか? えっ、生まれる前?」
ピリカには全然意味が解らなかった。
「ところで古いいい伝えにあるように龍、いやBANさんはここで今でも財宝を護ってるって本当ですか?」
「はは、それは人間が創作した伝説よ。 そういうことでこの滝に神秘性をもたせ神聖なものしたいのだろう、人間のよくやることじゃ」
「創作ですか?」
「そう創作。人間らしいやり方じゃ」
「ところで今日は私達を助ける為にBANさんは出て来たんですか?」
「いや、これをピリカに渡しに来たんじゃよ」
瞬間、龍は白い玉を口に咥えていた。
「ほれ、受け取りな」
その時、天に轟くぐらいの爆音が空一面に響きわたった。 龍は消えピリカは小さな白くて丸い石を握っていた。
「ピリカ……ピリカ、ピリカ」
「あっ、理恵ちゃん……」
「ピリカ、大丈夫なの?」
「何が?」
「何がって、あの後、意識がなかったでしょうが」
「意識が……? わたしの…? じゃあ龍が出て来たのは?」
「龍……どこに?」
「ここに」
「いつ?」
「今まで」
「……あのねぇ、ピリカはここで今まで気を失ってたの」
「うっそ? だってこの玉は? あっ無い……?」
そう、龍からもらったはずの玉が、手からいつの間にか消えていた。 それからふたりは辺りを探索して時間が過ぎた。
「もうそろそろ帰ろうか、ピリカ本当に大丈夫? ちゃんと歩ける?」
「うん、身体は何ともないよ」
二人は駐車場へ足を進めた。
「あ~着いたッと。 チョットしんどいね」理恵はピリカを気遣った。
「理恵ちゃんありがとう。 さっき私は全然気絶してなかったんだ。 実は龍と話しをしてたの」
「……龍と?」理恵は突然のことにビックリしていた。
「そう龍」
「あの、掛け軸とかお寺の天井などに描いてあるあれ?」
「うん、あれ!」
「うっそ! 気を失ってたあの時に?」
「私、熊の後からずっと正気だったけどたぶんその時」
「二~三分だったけど」
「うん、私にはもっと長く感じたけど」
「ねぇ、詳しく教えて」
「うん、あのねぇ~」
ピリカはさっきの出来事を理恵に聞かせた。
「へ~! 凄いことがあの短時間に起こったんだね、ピリカ凄いじゃん! でもその白い玉って何だろうね? 気になるけど……」
しばらくして理恵の父親が迎えに来てふたりは家路に着いた。
夕食後「ねぇ、お父さん」その日のことを父親に話した。
「で、どう思う?」
「どう思うって言われても、父さんも龍のことはよくわからないよ。 でも白い玉を貰ったっていうことは少し気になるな」
翌日曜日、この日は朝から倶知安町は羊蹄山からの冷たく強い風が吹き下ろされていた。
母親が「昨日とは打って変わり天気が荒れてるねぇ。 今日は家でビデオ三昧といこうかね・」
外では愛犬モモが珍しく遠吠えをしていた。
ピリカが「モモ、どうかしたの?」。
「ピリカ、いいところに来たね。 今日は朝から龍が羊蹄山を中心に飛び回ってる。 しかも激しく!」
「どれ?」と見上げた瞬間
龍が疾風と共にピリカめがけ襲いかかってきたかのようにみえた。
「あっBAN!」
その瞬間、ピリカの意識は昨日のように遠のいた。
「BANではないRON。 BANは私の仲間で賀老の主。 私は羊蹄地区の天候を司るRON」
「わかりました。、で、今日はなにを?」
「最近、羊蹄地区の土地と空気が澱んでいるから浄化をする。 外出時は気をつけてこれを初顔合わせの記念に……」
水晶のような玉をピリカの手に乗せてRONは消えた。 ピリカは我に返り手を見るとまた何も無かった。 これで二度目、龍の玉はいったい何の意味があるの? 全く理解できない……
「お父さん、お母さん。今日は外出しないようにだって。 モモもミミも嵐が止むまで小屋に入ろうね!」
外は台風なみの暴風雨に見舞われた。 翌日は澄み切った空気で日差しが痛く感じられた。 二日間で二度も龍と出会ったピリカ。
全然意味が解らないままピリカは登校した。
「ピリカ、おはよう」
「おはよう、理恵」
「その後、変わったこと無かった?」
「それがあったのよ。 昨日は羊蹄山の龍が山から下りてきてまた玉をくれたの、意味分かんないの……まったく。 私の頭どうかなりそう」
「でもピリカは動物と会話できる力があるからそれとなにか関係あるかもね?」
「う~ん、解らない? こんな能力無くてもいい……」
これから起こる不可思議なことをピリカは知るよしもなかった。