Liebe


「来た」

ガタッと音がして、廊下を誰かが歩く音がする。
もちろん、ウィリアムで間違いはないだろう。

今すぐ扉を開けて駆け出したい衝動を抑え、エリーはしばらく部屋で待機した。
きっとウィリアムはまだ寝起きでぼんやりとしている。

今すぐ行って話をするのは得策でない。
エリーはそわそわしながら時計を見つめた。

せめて朝食を食べ始めるくらいの時間にひょっこりと顔を出していこう。
そう決めてエリーは扉の前でその瞬間を待っていた。

耳を扉に当てる。何も聞こえない。


「もういいかな」

リヒトに聞いてみると、リヒトは呆れた顔で深く頷いた。
どうでもいいのだろう。

エリーはハッと息を吐いて気合いを入れる。
そしていつものように扉を開けた。

階段を下りる。
そしてダイニングへ顔を出した。
もう朝食を食べたのか、ウィリアムはぼんやりと珈琲を飲んでいた。早い。

「ウィリアムさん、おはようございます」

「……あぁ」

大丈夫だ。少しぼんやりしているが、ちゃんと起きている。
何を基準にしてそう思ったのかは不明だが、エリーは絶対的な確信を持っていた。

「あの、ウィリアムさん」

「……何だ」

「実は昨日、泉である方に会ったんです」

エリーの言葉にウィリアムがぼんやりとした視線をエリーに絡ませる。
エリーは今にもスキップでもしそうなくらい楽しそうに話を続けた。

「シェルっていう方です。ご存知ですか?」

「……あぁ」

それほど興味がないのか、ウィリアムが珈琲を飲み続ける。
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