弟はドラゴンで
「もしかして、“他の奴”が存在するとか?」
龍はあごに手をやり、考えるように少し斜め上に顔を上げる。
「“他の奴”?」
「俺とは別に、人間と何かのハーフのやつがいる……とか」
「え、え?」
「実際、俺も人間とドラゴンのハーフなわけだし、他にも何かのハーフの奴がいてもおかしくはねぇと思うんだよな」
「……まぁ、たしかに……。」
じ、じゃあ、龍とはまた別に、人間と何かのハーフが存在するってこと?
でも、もしそうだとしても……どうして人間を……。
「ま、そういう考え方もあるってことだ!ていうか、噂だろ?証拠も何もないんだ。人が襲われたなんて、ニュースでも言ってないんだし、ただの噂にすぎねーよ」
龍が私の頭にポンッと手をおいて、ニカッと歯を見せて笑う。
「……ただの……噂……だよね。」
「おう!噂なんて、あてになんねぇよ」
不安そうに聞く私の頭を、龍が優しく撫でてくれる。
龍の言葉で、少し安心した。
そうだ、ただの「噂」なんだから。
誰かが勝手に作り上げた話かもしれないんだし。
そんなに、心配することないよね。
変に不安がっていたら、逆にそれを周りにおかしく思われてもいけないし。
龍がこう言うんだもん、大丈夫だよね。
間に受けないでおこう
本気にしないでおこう
そう思っていた。
心配しなくていい
ただの「噂」
だから、大丈夫。
そう、思っていた。
だけど……
この時の私たちは、後々起きることに
「ただの噂」だなんて言えなくなることを
まだ、気づいていなかったんだ。