小説請負人Hisae
2「香織の黙示録」

 4月初旬、桜が咲くこの季節、コートを脱ぎ捨てたが朝晩の寒さが肌身にしみ、まだコートが恋しい季節。少し風変わりな依頼がHisaeのもとに届いた。依頼の題名は「黙示録」依頼者は古屋敷香織三〇歳。職業ホステス。

依頼内容
未来を予知する特殊
能力の持ち主、古屋敷香織。職業ススキノで働くホステス。

現代版のノストラダムス、エドガー・ケーシー風にとの依頼で結末は、意味ありげな予言を残し忽然と姿を消してしまうという展開にしてほしい。予言の内容は適当にHisaeに考えてほしいとのこと。注文はそれだけ。

執筆の依頼額は原稿用紙二〇〇枚で五〇万円。なんか解らないけど、興味をそそるような依頼と金額にHisaeは机に向かった。

えーと題名は「黙示録」か…ちょっとベタね? 「香織の黙示録」…同じか、まっ、解りやすくていいか!


あらすじ、職業ススキノのクラブで働く女性香織二五歳の数奇な運命。 ホステスは人間観察の好きな香織にはもってこいの仕事。 多彩な職業と年齢の客を観察し、お金がもらえる、趣味と実益を兼ねた打って付けの職業だと考えた。働いて一年が経過し、この仕事が本当に楽しく思えてきた矢先。香織の身にある変調が起こった。

仕事中、なんの予兆もなく突然激しい頭痛がして気を失ってしまった。脳外科病院へ救急搬送され、意識を取り戻したのはMRIの中だった。

医師は「脳に異常なし。疲れかストレスからきた一過性のものだろう」との診断。三日間の検査入院。 初見通り異常は見あたらず退院。その日のうちに職場復帰した。

それから数日後、店で普通にお客の横に座った刹那、その客が帰るビジョンが脳裏に視えてしまう。何だろう……?  わたしの頭どこか変? 少し不安になってきた。

退院後の香織に少し不可思議な能力が目覚めてきたのであった。香織の能力は個人に止まらず、地域社会、果ては国のことまでが視えてくるという特殊な能力。そんな香織の数奇な生き様を描いた小説。


こんな感じでどうかな? Hisaeはあらすじを香織にメールした。
「興味深い内容になりそうで楽しみです。よろしくお願いいたします」と返事がきた。

ようし!執筆に取りかかろう。

Hisaeは部屋に籠もった。執筆中は部屋に閉じこもったまま、できあがるまで何日も出てこないことが普通にある。それが彼女の執筆スタイル。


「香織の黙示録」

札幌のクラブで働く女性香織二五歳の数奇な運命。

好きな人間観察が出来て、そしてお金になる仕事ホステス。この職業は人間観察の好きな香織にはうってつけの仕事。二四歳でデビューをした香織。
ホステス業の一年はあっという間に過ぎていった。

そんな仕事が楽しく思えてきたある日のこと、香織の身に突然ある変調が起こった。それは、接客中になんの予兆もなく突然頭に激痛をおぼえ、客の前で気を失ってしまった。店は騒然となり、ホステス仲間や客はくも幕下出血か脳梗塞だろうと勝手に憶測した。

救急搬送され、意識を取り戻したのはMRIの中。医師の診断は「脳には異常なし。疲れかストレスからくる一過性のものだろう」との診断。念のため三日ほど検査入院することになった。再検査結後、初見通り脳に異常は診あたらず退院となった。

退院後、香織は心の奥で微妙な何かが異なっていることに気がついていた。
言葉でうまく表現できないので他言はせずにいた。

退院から数日後、店に普段通り香織の姿があった。 同僚のANNAが香織に声を掛けてきた。「香織ちゃん大丈夫なの?無理しないでもう少し休んだら?」ANNAは香織の同期で、店で一番気の合う同僚。

「心配させてごめんね、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね…」


香織が仕事に復帰して3日目のこと、紳士風の中年男性客の席に着いた。
その瞬間だった。香織は意識がとおのいて、先日倒れた時のあの感覚。
そしてあるビジョンが視えた。

そのビジョンとは、客が店を出てタクシーを止めようと車道に乗りだした瞬間、後ろからきた白いスポーツカーにその客が跳ねとばされるという光景。

香織は「妙にリアル……?錯覚?」と思ったが気にせず、いつものように明るく接客した。そして、その客が帰るのを店の外まで送りに出た。

香織が「楽しかったです。又、お越し下さい。お休みなさい」手を振り見送った。店に戻ろうと背を向けた瞬間、ドン!という鈍い音が後ろでした。 同時に女性の悲鳴が聞こえた。香織が振り返ると今見送ったばかりのその中年紳士が倒れ込んでいた。

警察が来て目撃者の証言を横で聞いていた香織は我が耳を疑った。タクシーを止めようと車道に乗りだした瞬間、後ろから来た白いスポーツカーに跳ねとばされたらしい、その車はそのまま逃走したとのこと。なんと、あのビジョンと一致していたのだった。

その後も何度か、自分が予期しないときに視るビジョンが現実に起こることに気がついた。その頻度がだんだん増してきて自分が怖くなってきた。

仕事前に携帯で「ねえ、ANNAちゃん、ちょっと聞いてほしいことがあるの」香織は事の一部始終を時間をかけて説明した。

「香織、あんたにすごいこと起きているのね。最近の香織はなにか宙を見ているなって気になってたけど、あんた大丈夫なの? もう一度病院で検査したら?」

「うん、今のところ大丈夫だけど、でも今朝、新聞を読んでいたら急に文字が歪んで見えたの、そしたら紙面が急に変わったのね、そこに書いていた記事が、政治家の山田国男が何者かに拳銃で撃たれ即死って書いてあったのよ。 もう一度よく目を凝らして見てみると、今度は全く違う株価暴落の記事だったのね。わけ解らないよ…」

香織はANNAに話して落ち着いたのか気が少し気が晴れ、最後は普段通り笑いながら話し携帯を切った。

翌朝10時香織は携帯の着信音で目がさめた。

だれなの?こんな時間に…ホステスの朝は遅かった。

「はい……」

「香織、テレビのニュース見た?」

「ANNAちゃん?どうしたのよこんな時間に?」

「山田国男が銃撃されて死んだのよ」

「……えっ! うっそ?」

「本当よ。今、テレビでやってるもん。テレビ入れてみてよ、速報でやってるから」

香織は自分の耳を疑った。すぐテレビをつけた。目に飛び込んできたのは山田国男殺害の速報。

「ほんとだ…ANNAちゃん、私、怖くなったからとりあえず電話切るね。また、こっちから連絡するからじゃあね」

携帯を置いた香織はその場に座り込んでしまった。その日は「病院の検査で疲れたので、今日は店を休ませてほしい」とマネージャーに連絡し、部屋に籠もりパソコン画面を朝から眺めていた。

自分のような症状の人が他に居るんだろうか? これからどう行動したらいいの? 考えることがいっぱいあって、解決するどころか香織の頭は混乱するばかりだった。

「何故、私なの?」

「聖書黙示録?・ヨハネ、ノストラダムス、エドガー・ケーシー、日月神示?なんなのよ全然解らないよ?まったく!」そのうち香織は寝入ってしまい夢を見ていた。


場所は中国。香織は大きなダムの上空にいた。突然「ドドドッ!」というけたたましい音がしてダムが崩壊した。
下流の街はひとたまりもなく押し流され、死者数三十九万人という前代未聞の大惨事と化していた。 原因は下請け業者と役人の癒着による手抜き工事。中国史上最大の人災と判明した。

次の瞬間、香織はアメリカのとある空軍基地の中にいた。記者団を前に軍の偉いさんと思われる人間が、ある写真の白い物体を指さして何かを語っていた。

「この度、我が軍は地球外生命体と接触することに成功した」

その先には普通の人間とは若干違い透き通った感じのする生命体があった。そう、それは地球外生命体の存在。アメリカが宇宙人の存在を世界に知らしめた歴史的な瞬間であった。

ここで香織は目が醒めた。

今の夢なの?なんかリアル過ぎ?と自問自答した。 それから十日程過ぎた頃、自宅でテレビを見ていると急に部屋が揺れ始めた。

「あっ!地震!」揺れはすぐに収まったがそれなりに大きな揺れだった。テレビでは震度4となっていた。震源地は中国とあった。

その後、テレビは臨時ニュースに切り替わり、「この度の地震の震源地中国でダムが決壊し、複数の街が一瞬にして飲み込まれ、大惨事になっている」というニュースが報道された。香織は絶句し固まった。瞬間はっきりと自覚した。

「この事は偶然なんかじゃない。だって私、視たもの。十日前、この現場に私は居たもの。 一部始終見てたし」そう思った瞬間身体が震えてきた。得体の知れない不安感に襲われた。

「じゃあ、あの宇宙人も? もしかしたら?」

その翌日の新聞に小さく「米空軍、宇宙生物の存在を容認する発言!」と書かれていた。

もう、疑う余地はない。私には未来の出来事を何らかの方法で察知できる力があるんだわ。

でも、香織は他言しないでおこうと心に決めた。

この手の発言は最初、もてはやされるが、次第に話が歪曲され終いに狂言者呼ばわりされるのが関の山と思ったからだから。
でも、せっかく備わった能力。ブログを開設して夢日記の類で書き込みをしよう。ブログは書き込みした日時が刻まれるから、狂言でないことは実証できるし、事故を事前に回避できる人が出てくるかもしれないと思った。

ブログは「香織の夢日記」というタイトルでアップされた。内容は自然・社会の出来事など新聞の三面記事のような書き方。違うのは、まるでその場で見てきたかのようにリアルに書いているところが新聞とは大きくちがう。


Hisaeはキーボードを叩く手を休めた。
あ~あ~とっ、一服、一服。書き始めはこんなものかな?
 
次はどんな事件や出来事を書こうか? 案外自分で書いていて面白い出来だなこれ……架空の予言って結構楽しいかも…
責任感が全くないし、かといってデタラメでも伝わらないからリアルさも要求される、小説ならではね。シャワー浴びてまた、書こうっと。今度はと、そうだ!大企業を倒産させちゃおうっと。
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