恋は、秘密主義につき。
「ダメ、・・・です。もう行かない、と・・・」

心とは裏腹の、なけなしの理性で発したぎこちない言葉。
躰を離そうと身じろぎすると抱き締める腕にぎゅっと力が籠もり、・・・緩んだ。

顔を上げれば、黙って落とされた口付け。
私を離した佐瀬さんは気怠そうに髪を掻き上げて、素っ気なく促す。

「行けよ。・・・始まンだろ」

「はい・・・」

俯き加減に目を逸らして小さく。
いつも近くに居てくれているんだろうと知っていても、途中で姿を見せるなんてこれまで一度もなかった。
今日に限ってどうして。
心が揺さぶられて、靴の底を床に貼り付かせたみたいに立ち竦む。

「・・・行かねーなら、オレが浚っちまうぞ」

耳に届いた言葉に弾かれたように見上げるとそこには。
ひどく儚そうに。口の端で淡く笑む、初めて見る顔がありました。

「連れて行ってください」

躊躇いなんて微塵もなかった。
全てを。置き去りにしてもいい。
貴方と一緒なら。

二人きり、知る人もない別の国でだって生きていけるんです。

私は本気でした。
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