恋は、秘密主義につき。
「ごめんなさい、お待たせしちゃいました」

「大丈夫。もう中に入れるから、行こうか」

急ぎ足で戻り、少し遅くなったことを詫びれば、征士君は気にしていない様子で甘やかに笑う。
紙製のカップホルダーを彼が、私がポップコーン入りの袋を手に入場口に並びました。
きっとどこからか、佐瀬さんも見届けているでしょう。




男の人らしく、好みはアクション映画かなと思っていたら。コミックスが原作の、シリアスコメディなアニメ映画でした。殺し屋稼業さん達のお話でしたけど、カッコいいだけじゃなく、ほっこりもしていて。それでいてハラハラしたり、じーんと来たり。

「なんにも考えないでハマりたい時に、よく読むマンガなんだ。ちょうど封切りになったから、レイちゃんに俺の好きなものを紹介しようと思って」

2時間ちょっとの上映時間を終え、フードコートで遅めのランチをしながら笑顔が途切れない征士君は、やんちゃな大人のようでした。

始まる前までは手を伸ばしていたポップコーンも、二人ともいつの間にかスクリーンに釘付けになっていて。もったいないので残った分はお土産に。

「全然知らなかったですけど、面白かったですよ。続編があったら観たいです」

素直にそう思ったので、つい口にしてしまってからハッとした。

「そうなったらまた一緒に来よう。今から楽しみだな!」

「はい・・・」

何を疑うことなく破顔する彼に、取り繕った笑みを返すしかない私。

もし。大好きなただの幼馴染としてだったら。
映画だって買い物だって、ご飯を作って一緒に食べるのだって付き合えるのに。
これからもお互いの仕事の話をしたり、ラインも電話も気軽にできたはずなのに・・・っ。

征士君の望みはそうじゃありません。
膝の上で、きゅっと握り締めた両手。掌に爪が食い込むくらいに強く。

叶えられないから、今日で最後です。
次は。・・・私はもう隣りにはいません。

・・・ごめんなさい。征士君・・・・・・。


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