恋は、秘密主義につき。
バケットサンドと飲み物で軽くお腹を満たした後は、夏向きの服とシューズが目当てだという彼に付き合って施設内のショップを巡りました。

「レイちゃんと会う時は大人っぽく見せてるけどね。これからの季節だとハーフパンツにサンダルとか、一人で出かける時はラフな格好してるよ」

いつもより、気取りのない素顔を覗かせてくれる征士君。

通りがかりのレディスショップの店頭で脚を止め、コーディネイトされたトルソーを眺めながら「絶対に似合う。着てみたら?」と真剣な顔付きで勧めてくれたり。
試着する征士君に逆に、色や柄がどっちが似合うかの判定を任されて、私が選んだ服に決めたり。店員さんが『彼女さん』と呼んだのを、照れ臭そうに鼻の頭を小さく掻いていました。

歩いている間はずっと手を繋ぎ。征士君のお誕生日祝いのはずなのに、エスコートされているのはいつの間にか私で。
遠慮したのをどうしても聞き入れてもらえずに、立ち寄ったアクセサリーショップでは、花をモチーフにしたラインストーンとフェイクパール遣いの可愛らしい髪留めをプレゼントしてくれた。
仕舞うしかなかったバッグの持ち手を握り締めながら、お礼を言った時。・・・ちゃんと笑えていたでしょうか。




「そろそろ出ようか。帰りにスーパーに寄って、夕飯の買い物もしなくちゃな」

腕時計に目をやり、満足そうに彼が笑んだのを。
一瞬にして心臓が鉛の鈍器に変わったみたいに。耳の奥で重たい音を立てた気がした。

「・・・そうですね」

それを振り払うように私は、目を見交わして微笑み返したのでした。



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