恋は、秘密主義につき。
味加減を見つつ、征士君には具材を刻んでもらったり。二人でキッチンに立ち、作業を分担して料理を進めていく。

「普段からやってるって感じだよな」

いつも通りに作っているだけで、特に手慣れた風でもないと思うのに、こっちを見て征士君は嬉しそうに目を細める。

「変に気取ってなくてレイちゃんていつも自然体だろ。そういうところも、すごく好きだよ」

「ありがとう、ございます」

小さく笑い返し、火加減を見るフリで何気なくはぐらかすしかありませんでした。

「俺ね。ずっと祖父に、『お姫さまを誰かに取られたくなかったらどうすればいいのか、自分で考えろ』って言われてきたんだ」

手を止めることもなく、まな板の上の玉ねぎを薄くスライスしていく彼。
変わらない穏やかな口調のままで続けられた言葉に、私はそっと視線を振り向け。フライパンの中でジュウジュウと爆ぜた音を立てる、鶏肉の焼き色を気にしながら耳を傾けていました。

「レイちゃんはどんな俺を好きになってくれるだろうって、子供なりに色々考えたっけな。彼女がいる友達の話をさり気なく探ってみたり、少女漫画読んでみたり。俺がまるっきりレイちゃんの好みじゃなかったらどうしようかって、会う前はめちゃくちゃ悩んだよ、これでも」

クスリと笑む気配に横を仰ぐと、照れ臭さそうな彼と目が合った。

「まずはお母さんの第一印象だろってカッコつけてたし、レイちゃんにも歳上の余裕を見せるフリしてたりね」

言われて思い返してみたけれど。

「全然そんな風に見えませんでしたよ?」

「今も?」

こくり。頷く。

「なら良かった」

スライスし終わった玉ねぎをボールに移し、さっと水に晒して手早くザルに上げた征士君は。悪戯気味に言ったあと、ふっと微笑んだ。

「保科さんには負けられないからな。・・・絶対に」
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