恋は、秘密主義につき。
6-4
私を中に残したまま一度コンビニに立ち寄り。ロータリーを出てから30分も走らない内に、どこなのか見当もつかない場所に車が入っていきました。

「着いたぞ」

バッグを手に、辺りを見回しながら降りれば。上はあまり高さのない天井が迫っていて、いわゆるビルトインの駐車場のようでした。

佐瀬さんに肩を抱かれ、暗い蛍光灯の明かりでぼんやりとしか分からない足許を気にして奥に向かうと、鉄製の扉が一つ。
鍵は掛けられていないらしく、無造作に彼がノブを回してドアを開く。上に伸びた広くもない階段が目の前に見えて、先に行けと促された。

感覚的に4階くらいまで昇った踊り場にも入り口と似たような扉があり、佐瀬さんはそこで初めて鍵を手にしました。
開けた時、軋んだ鈍い音が遠慮なく階下に響き渡ったのを本人は気に留めない様子で。そう言えば他に誰も人の気配がなかったような、・・・無かったような。

真っ暗だった室内が照明の光りで一瞬で塗り替えられた時、私は少し呆気にとられたかもしれません。
ワンフロアで20帖くらいはあるんでしょうか。入り口から向かって正面は、ブラインドの下がった窓が並び。右端にキッチンスペース・・・というか、流し台と冷蔵庫だけが見えています。壁際にグレーのスチール棚が置かれていて、電子レンジにコーヒーマシン、トースターは揃っているようでした。

「・・・佐瀬さん、あの。ここって・・・?」

規則正しく蛍光灯が天井に整列し、白さが浮き彫りになった無機質な空間はどう見てもオフィスの造り。床もテラコッタ風のクッションフロアが敷かれ、靴を履いたままで佐瀬さんは私を連れ中へと進んでいく。

「あー・・・、オレの部屋だ。持ち主が使わねぇ事務所を改造したらしーな。・・・広すぎて使い道もねーわ」

億劫そうな口調に、掃除が面倒だと嘆いていそうな普段の姿が目に浮かんで、思わず小さく笑ってしまう。
< 210 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop