恋は、秘密主義につき。
7-3
白いボートネックのトップスにサーモンピンクのロングスカートに着替え、洗面台を借りて、髪はバレッタでハーフアップにする。
愁兄さまと会う時はいつも下ろしていたけれど、今日は。自分の気持ちを奮い立たせる為のおまじないのつもりで。


「保科のトコまでオレが連れてく」

咥えタバコで黒いシャツに腕を通しながら、佐瀬さんが気怠そうに言い。
陽も傾きはじめの頃、部屋を後にしました。

見慣れない街中を流れに乗って走る車。
いつしか無口になって、ぼんやり外の景色を目に映しているだけの私に。

「・・・どした」

不意に隣りから声がかかり、少し驚いて振り返る。

「やけに大人しいな」

赤信号で、前に続いてゆっくり静止する車。視線だけ傾けた貴方と目が合う。

取り留めのない考えごとをしていたのを、見透かされたようでした。
少し前までだったら取り繕った笑みで曖昧に答えていたかもしれないけれど、表情を作らずに素のままで、小さく息を吐きました。

「・・・兄さまに会うのに緊張するなんて思っていなかったので、なんだか自分が変わってしまったみたいで・・・。不安というか・・・たぶん怖いんです」

佐瀬さんのことを話せば、彼の過去を知っている愁兄さまがどう答えるのか想像がつきます。
それでも。わかってもらいたくて私は兄さまに会いに行く。
世界でいちばん兄さまが大好きなのは変わらないのに。悲しい顔をさせてしまうと知っていて、会いに行く。

「ワガママで嫌な子に思われるかもしれないって。・・・そんなことを考えてました」

俯かせた眸を歪めて、思っていることを吐露した。
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