恋は、秘密主義につき。
あらかじめ佐瀬さんと愁兄さまで待ち合わせ場所を打ち合わせていたらしく、6時半前には名前を知っているシティホテルの地下駐車場に到着していました。

結婚式場も兼ねるこのホテルチェーンはビュッフェレストランが特に人気で、ランチタイムには女性客が詰めかけるのだとか。
佐瀬さんは当たり前のように私の肩を抱いてエレベーターに乗り、最上階フロアで降りた。

ディナーは夜景が人気でデートスポットにもなる、件のレストランの前をそのまま通り過ぎると、見るからに高級感が漂う中国料理店へと躊躇いもなく足を踏み入れる。
ドレスコードは大丈夫なのかと内心で慌てましたけど、クロークのコンシェルジュは名前を告げた佐瀬さんに品良く微笑みながら、別の案内係をインカムで呼んだ。

朱塗りの格子で仕切られた半個室タイプのテーブル席が続き、突き当たりに観音開きの扉が。案外係について中に進むと、そこは絨毯敷きのロビーになっていて、半円状にいくつかの扉が並んでいました。

「こちらでございます」

右手の2番目の観音扉をゆっくり押し開けたチャイナ服姿の女性。
畏まった口調で、恭しくお辞儀をした。

「美玲」

その奥から、柔らかい声が聴こえ。
兄さまがしなやかな身のこなしで、円卓から立ち上がったのが目に映ったのでした。
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