恋は、秘密主義につき。
アポイントスケジュールには10時来社、とあった。 
時間のちょうど5分前に、1階から昇ってきたエレベーターが電子音と共に6階に到着し。自動で扉が開いた時。背格好で、一目で彼だと分かった。

紺色の細身のスーツ姿。すらりとした身長によく似合っていて。そう言えば、スーツを着ている征士君を見るのは初めてでした。
背筋を伸ばし、カウンターに向かって真っ直ぐ、躊躇のない足取りでアテンダント二人の前に立った彼。

「レーベンリゾートから出向になりました鳴宮と申します。ライフリー事業部営業二課の楠田課長にお取り次ぎいただけますでしょうか」

名刺を差し出す仕草も、爽やかな印象も。少しも変わらずに征士君は私を見つめていた。
違っていたのは。色を黒く戻し、サイドをツーブロックにした、前よりも男っぽさを感じさせる髪型くらいです。

「・・・承っております。少々お待ちくださいませ」

私も普段と同じように控えめな、けれど心からの笑顔で丁寧に応対する。

来訪を告げたたぁ君に、2番のミーティングルームに通すように指示をされた私は、カウンターを一実ちゃんに任せて征士君をオフィスフロアへと案内した。
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