恋は、秘密主義につき。
「取りあえず話聴きたいし、帰りにゴハン付き合って!」

一実ちゃんが、女の子よりは低めの早口できっぱりと。
コクコク頷いて、イスに座っている姿勢を正す。そろそろ14時アポイントのお客様がいらっしゃる時刻。

私と一実ちゃんはフロアアテンダントとして、6階フロアの部署に来社されたお客様を、各ブースにご案内するのが仕事。
10階建てのこの自社ビルには総合受付はなく、オフィス各階のエントランスにフロアカウンターが設置されていて。お客様はエレベーターで用向きのある階まで上がってきたら、アテンダントを通さなければオフィスへは立ち入ることが出来ません。

アポイントのあるお客様は、担当者から事前申請があってタブレット端末で確認できるし、そうでないお客様はエントランスでお待ちいただくか、時にはお断りもします。
丁寧に、柔らかく、でも毅然と。・・・毅然と、っていうのが私にはちょっと難しいのだけれど。そこは一実ちゃんがフォローしてくれて、職務を全うできているのは、頼り甲斐のある一実ちゃんのお陰なのです。

服装も自由で特に決まりはなく、外回りが多い部署は女子社員もスーツが多いし、内勤部署は、節度のあるオフィスカジュアルだったり。
そんな中で唯一、制服を支給されているのはフロアアテンダントだけ。
丸襟の襟元にリボンがあしらわれたツイードのオーバーブラウスに、清楚なラインの膝丈スカート。朝、ロッカールームで制服に身を包むと、自然と気も引き締まる。


「いらっしゃいませ」

お客様を私らしい笑顔でお迎えし、心を込めてお見送りする。決しておざなりにはしない。
会社の利益には直結しない、気楽そうな仕事に見えるのだとしても。楠田グループ全体の品位を真っ先に問われる、大切な役割だと思っていますから。

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