恋は、秘密主義につき。
9-3
約束の10分前にふーちゃんが泊まっていたビジネスホテルに到着し、路上駐車の佐瀬さんを残して自動ドアをくぐり抜ける。

壁や床はオーク系を基調にした配色で、シックな雰囲気という印象。
艶消しの黒が際立つフロントの反対側が、ガラス張りのロビーになっていて。スーツケースを一人がけのソファの脇に置き、脚を組んでタブレットに目を落とすアイドル顔の男子がすぐに見つかりました。

「お待たせしました、ふーちゃん・・・!」

「待ちくたびれた。キスしてくれたら許すけど」

気怠そうに背もたれに体を預け、不機嫌に私を見上げるふーちゃん。
普通だったら、こんな場所でそんなことできません。できないんですけれど! 言うとおりにしないと、するまでテコでも動かないのがふーちゃんです。

ほんの一瞬、ほっぺだったら『挨拶』に見えるはずです。バカップルじゃありません~~。
心の中で、誰に向けてかは分かりませんがそう弁解しながら、肩先に滑り落ちる髪を耳にかけ。少し屈んで顔を近付けていく。と。

頭の後ろを不意に捕まえられて、あっと思う間もなく、唇に質感の違う弾力のある感触が。

「?!!!!」

「キスの場所、間違えないでよミレイ?」

下唇をペロリと舐めて離れたふーちゃんが、意地悪く笑って立ち上がります。

「ふ、ふーちゃんっ」

「ほら行くよ。佐瀬サン、待ってんじゃないの?」

私の手を掴み、もう片方でスーツケースを引きながらお構いなしに歩き出す。


・・・・・・・・・なんだか、ふーちゃんの愛情表現がパワーアップしています。
征士君を意識してるせいなんでしょうか。
少し遅れがちに横顔をそっと窺った。

やっぱり“嵐”の予感しかしない私・・・です。


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