恋は、秘密主義につき。
なんの脈略もなく唐突だったと思うのに、征士君は「どうぞ」と笑って軽く応じてくれた。
私はお礼を言うと、ショルダーバッグからスマートフォンを手に取る。

『美玲? ・・・どうかしたの? 今日は鳴宮君と一緒じゃなかったかな』

向こう側からいつもの優しい響きが聴こえ、ほっと胸を撫でおろしてしまう自分。絶対的な安心感は、やっぱり他の誰とも比べようがなくて。
さり気なく今の状況を伝えてみた。

「今も一緒ですよ。これから、征士君の手料理をご馳走になるんです」

『それは楽しみだね』

穏やかな声。
敏い兄さまなら。彼の部屋に向かっていることも察してくれたはず。
電話をかけた意図を汲んで、なにか答えをくれるだろうとそう思ったのだった。

もし。引き留める言葉が返ってきたなら。愁兄さまの言うとおりにすればいい。兄さまはいつだって私のことを考えて、間違わないように手助けしてくれますから。

『僕もぜひ感想が聴きたいかな。何時頃に帰るの? 電話するよ、美玲』

僕がいるから大丈夫だよ。
柔らかい口調から受け取れた、そんなサイン。

「そう、ですね。そんなに遅くはならないと思います」

『・・・じゃあまた後で。鳴宮君にも宜しく言ってくれるかな。彼とも一度ゆっくり話がしてみたいから』

最後は微笑まれた気配で。

知らないうちに迷いに似た気持ちも薄れていて、スマートフォンを仕舞うと、征士君に小さく笑みかける。

「愁兄さまが、宜しくって言ってました。今度、征士君にも会いたいそうです」
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