恋は、秘密主義につき。
「今日は、レイちゃんの好きな水族館に行こうと思ってるんだけどね。 どう?」

「あ、・・・はい」

「じゃあコンビニに寄って、飲む物なにか買おうか」

「はい」

「レイちゃん」

「はい」

「さっきから『はい』しか聴こえてこないけど?」

「・・・はい?」

そこで小さく吹き出した征士君は、怒ってる風でもなく片手ハンドルで頭を掻く。

「その様子だとお母さんに押し切られてしょうがなく、ってとこか」

・・・ご明察です。

「今すぐ帰りたい?」

ふるふると首を横に振る。
それは誓って、無いと思うので。

「なら、お試しと思って俺に付き合ってくれればいい。10年も会ってなくて、俺がどういう人間か分からないだろうし。レイちゃんのペースでゆっくり行こう」

口許をやんわり緩めた横顔を、思わずじっと見つめてしまった。
悪い人ではないんでしょう。人の気持ちを思いやる余裕もあるみたいですし。

「なに?」

運転しながら、どこか愉しそうに征士君が横目を向けてくる。

「いえ、・・・あの。宜しく、お願い、します」

少し言葉を詰まらせながら、それでもそう言い切れば。征士君は甘い顔立ちをもっと甘やかにして。女の子を虜にしそうな微笑みを浮かべたのだった。




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