そのままの君が好き〜その恋の行方〜
沖田くんと別れ、駅に向かった私は、涙を拭うと、携帯を取り出した。昨日から落としたままだった電源を入れると、私はあの人に電話を掛けた。


「もしもし、加奈か?」


「おはよう、和樹さん。」


待ちかねたように電話に出た和樹さんに、私は朝の挨拶を言う。


「ずっと電話出なくて、メールも返さなくて、ごめんなさい。」


「加奈・・・。」


「これから・・・家に行ってもいいですか?」


「もちろん、待ってるよ。駅まで迎えに行こうか?」 


「ううん、大丈夫です。」


「わかった、気をつけて。絵里もきっと喜ぶよ。」


「ありがとう。」


そう言って、私は電話を切った。


さっき、私は沖田くんに言った。あの人ともう後戻り出来ない関係になったって。そう、もう後戻りなんか出来ない。私は、私達は前に進むしかないんだ。沖田くんと話して、私はついにそう決心した。


和樹さんの家に着くと


「加奈ちゃ〜ん、いらっしゃい。会いたかったぁ。」


と絵里ちゃんが満面の笑みで、抱きついて来る。


「久しぶり、絵里ちゃん。元気だった?」


抱き上げた私に、頬をスリスリして来る絵里ちゃんが可愛い過ぎる。


「うん。ねぇ、加奈ちゃん、なんで最近、絵里に会いに来てくれなかったの?」


「ごめんね〜。ちょっとお仕事忙しくてね。でも、これからはちょくちょく会いに来るから。いい?」


「本当?嬉しいなぁ。パパもね、お仕事変わって、今度から、絵里と一緒の時間が増えるんだって。今度3人で、映画見に行こうよ。」


「うん。」


「やったぁ。」


そんな私達を、微笑ましそうに見ている和樹さん。


「お昼、何食べたい?お姉ちゃん、作ってあげるよ。」


「本当?」


「ちょっと待った、それは遠慮しとく。」


「それ、どういう意味ですか?」


「その通りの意味。オムレツに塩を入れる人に、娘の食事は任せられない。」


「か・・・近藤さん!」


さすがに絵里ちゃんの前では、まだ「和樹さん」とは呼べないから、慌てて呼び直すけど、それにしても前に、話したことがある料理の失敗談をしっかり覚えられてたとは・・・。


「昼飯のメニューはもう決まってるから。絵里と遊んで待っててくれ。」


そう言うと、和樹さんはキッチンに向かう。


前から得意だったのか、奥さんがいなくなったからなのかは定かではなかったが、和樹さんの料理は、確かに、私が作るよりは数段美味しかった。


久しぶりに私に会って、はしゃいだこともあって、絵里ちゃんはお昼ごはんのあと、間もなく眠ってしまった。私と和樹さんの2人の時間がやって来る。


「加奈、よく来てくれた。ずっと、連絡つかないから、やっぱりダメなのかと思ってた、ありがとう。」


「和樹さん、信じて・・・いいんだよね?」


「もちろんだよ。すぐにという約束は出来ない。だけど、君を必ず幸せにする。絶対に君を裏切ったり、傷つけたりはしない。それがどれほど辛いことか、残酷なことか、身に沁みてわかってるから。」


「はい。」


見つめ合った私達は、ゆっくりとお互いの唇を重ね合う。長く、そして深く、その愛を確かめ合うように・・・。
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