そのままの君が好き〜その恋の行方〜
今日から、我が課は新体制。新任の課長は、温厚だが、仕事には厳しい人みたい。望むところだ。


「桜井先輩、張り切ってますね。」


「うん、心機一転だから。」


後輩にそんなことを言われて、私は力強く肯く。先週までの私とは違う、公私ともに、新たなスタートを切ったんだから。


昼休みに、和樹さんにメールで、様子を尋ねると


『のんびりしてるよ、こっちは。まるで別世界。これでおんなじ給料とはな・・・。』


と戸惑い気味。本省でバリバリやっていた人だから、仕方ないけど。


『でも、お陰で、絵里の迎えに遅れる心配はなさそうだ。』


それなら、今は何より。私は和樹さんの分まで、本省で頑張ろう。


仕事が終わって、電話をすると、夕飯を食べ終わったところだったみたいで、絵里ちゃんが出て


『加奈ちゃん、お仕事お疲れ様でした〜。』


もう、可愛すぎる。そのあと、和樹さんに代わってもらって、話をした。


『離れてみて、よくわかったが、本省はやっぱり、ハードだ。加奈、体調管理には、気をつけるんだぞ。』


「はい、ありがとうございます。」


会うのは、週末までお預けだけど、こうやって毎日声を聞ければ、大丈夫。


こうして、充実した日々を送り始めた私だけど、その一方で、それを胸を張って、周りに報告出来る状況でないことも、残念ながら事実だった。


もう妻に愛情はない。向こうにも、その気はないだろうが、万が一にも、再構築なんて、あり得ない。


君とこうなった以上、やるべきことはキチンとやって、一刻も早く、君を迎えに行けるようにする。


昨日、和樹さんは、私を抱きしめながら、ハッキリそう言ってくれた。


その言葉に、私は彼の胸の鼓動を聞きながら、肯いていた。
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