そのままの君が好き〜その恋の行方〜
唯とは、翌日の夜に会った。


「ちゃんとご要望通り、あんまりソウくんが、肩が凝らなそうなお店選んだから。」


と唯が言うように、案内されたステーキハウスは、ドレスコードを気にする必要もなく、個室や綺麗な夜景が見えるような店でもなく、社会人が夕飯を共にするには、特別高価ではなかった。


「値段がまぁ手頃な割には、結構イケるでしょ。」


「肉が柔らかいし、ソースが美味しいよ。なんか、悪かったね。」


「ううん。ソウくんが喜んでくれれば、私は満足だから。」


そう言って微笑む唯。しばらく会わない間に、一段と大人びた気がする。そんな彼女を見てると、正直胸の高鳴りを感じざるを得ない。


「でも、あの時のソウくんは本当に緊張してたもんね。」


「僕の知らない世界だったからなぁ。社会人になった今だって、あそこに突然連れてかれたら、やっぱりビビっちゃうと思うよ。確かにめちゃくちゃ美味かったけどね。」


「うん。私もお父さんに連れられて、何回か行って美味しかったから、是非ソウくんにも食べて欲しいと思ったんだけど・・・あの日は何を食べても、なんの味もしなかった。」


そう言うと、唯は俯く。


「これがソウくんとの最後のお食事、そう決心して、あなたを誘った。留学先も決めて、大学の退学手続きも進めてた。もう後戻り出来ない状態だったのに、自分で決めたことなのに、あの食事の間中、私はまだ迷ってた。やっぱり言わなきゃよかったな・・・。」


「・・・。」


少しの沈黙。その後、顔を上げた唯は、俺に笑顔を向けた。


「でも今、こうやってまた、一緒に食事をしてる。この時間は嘘じゃない。」


「そう、だね。」


そんな唯に笑顔を返した俺は、すぐに表情を引き締めると言った。


「なぁ、唯ちゃん。」


「あれ、またちゃん付け?」


ちょっと不満そうな唯。


「スマン、やっぱり呼び捨ては、カレカノに戻れるって決まってからにしたい。」


「・・・。」


「1つだけ、確認してもいいか?」


「なに?」


「僕はお陰さまで、S社に合格した。4月から、また新入社員として、一から頑張るつもりだ。そして、今度こそ、骨を埋めるつもりでやる。だから・・・申し訳ないけど、君の会社に入るつもりはない。それでも、本当にいいの?」


その問いに、唯は大きく頷いた。


「はい。私は父の跡を自分で継ぐつもりだから。もし私に、その力がない時は、社内から然るべき人を後継者にすればいい。会社の後継問題と、私の人生パートナー選びはリンクしない。私は、それにやっと気がついたの。だから・・・ソウくんには、私自身を、そのままの白鳥唯を見て欲しい。」


そのままの自分を見て欲しい、その唯の言葉に、俺は胸をつかれた。
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